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第8話 脈動

キールが父の書斎を出て、屋敷の奥へと足を進めると、使用人たちの視線が一斉に彼に注がれた。

疲労と傷跡でボロボロの姿に、誰もが言葉を失い、ただただ彼の無事を確認するように見守っていた。


「キール様……お怪我は?」

一人の若いメイドが心配そうに声をかけると、キールは小さく首を振った。


「すぐに手当てを……」

別の年配の使用人が言いながら、慌てて手早く包帯や薬箱を持ってきた。


キールは疲れた足取りで自室へと向かう。

部屋の扉を閉めると、すぐに床に腰を下ろした。


扉の外では、メイドが静かに水を運び、傷の手当を始める。

優しく冷たい布で血の滲んだ傷口を拭き取り、薬を塗って丁寧に包帯を巻いていく。


「無理をなさらないでください、キール様」

彼女の声は落ち着いていて、まるで子供の頃からの知り合いのような安心感を与えた。


キールは痛みをこらえながら、窓の外に目を向けた。

遠く王都から派遣された捜索隊が、二か月後にこのダンジョンを本格的に調査し、封鎖するという。


「もうあの場所には近づけないか……」


キールが自室で静かに休んでいる間、外では夜の帳が降りていた。

暖炉の火が赤く揺れ、室内にほのかな温もりをもたらしている。


窓の外の闇は深いが、その向こうには無数の星が瞬き、遠く王都の灯りもかすかに見えた。


彼の思考は、避けられない学院での日々へと向かう。

入学試験での競争、同級生たちとの出会い。


しかし、それだけではない。


あのダンジョンで感じた異様な気配、獣の存在、そして謎の欠片。

それらは彼の胸に重くのしかかり、何か大きな変化の前触れのように感じられた。


数日後、屋敷の広間では入学準備の話が進んでいた。

父・ラークは厳しいながらも、息子の将来に期待を寄せ、教師や騎士たちとの打ち合わせに忙しく動いていた。


キールはその場にいるが、心ここにあらずという様子で資料に目を通している。

彼の心は既に、来たるべき試練に備えているのだ。

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