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第3話 得体の知れない何か

鐘の音は途切れることなく、一定の間隔で洞窟の奥から響いていた。

それは呼び声のようであり、また警告のようでもあった。


獣の死骸から離れ、俺は耳を澄ます。音は微かだが、確実に近づいている。


魔法灯を掲げ、崩れかけた部屋の奥の通路を照らす。

風が流れてくる——ただの空気の動きではない。

魔力を帯びた、重く冷たい流れだ。肌に当たるだけで体温が削られていく。


(……この先に、何かがある)


足音を殺し、通路を進む。

やがて道はゆるやかに下り、壁や床には緑色の苔がびっしりと張り付いていた。

苔は俺の灯りに反応して、ぼんやりと発光を始める。

まるで、進入者を導くように。


——その時、足先が何か固いものを蹴った。

しゃがんで拾い上げると、それは金属片だった。

半ば錆びついているが、装飾の跡がわずかに残っている。剣の鍔か……いや、装飾品の一部かもしれない。

人がここで何かを失ったのは確かだ。


奥へ進むにつれ、鐘の音は低く、重く、骨の芯に響くようになる。

同時に、通路の天井が高くなり、巨大な空間が口を開けた。


そこは——礼拝堂のようだった。

石造りの柱が何本も並び、壁一面に古びたレリーフが刻まれている。

中央には黒い祭壇。その上に置かれた、蓋付きの小箱。

小箱の周囲を、淡い青白い光がゆっくりと回っていた。


(あれが……鐘の音の源か?)


近づこうとした瞬間、空気が震えた。

祭壇の影から、何かがぬるりと現れる。


それは鎧のような形をした存在だった。

だが中身は空洞で、関節からは黒い霧が溢れ出している。

右手には長大な槍、左手には欠けた盾。

面頬の奥で、二つの蒼い光点がこちらを射抜いた。


「侵入者……排除」


金属を擦るような、しかし確かに意味を成す声が響く。

次の瞬間、その巨体が信じられない速度で間合いを詰めてきた。


槍の穂先が視界を裂く。

俺は咄嗟に横へ飛び、床を転がった。背後で石柱が粉砕され、破片が雨のように降り注ぐ。


(速い……! あの大きさで……!)


立ち上がりながら、俺は【エンボディメント】を発動する。

防御用の長盾をイメージ——厚く、頑丈で、槍の突きを受け止められるだけの重さを持たせる。


しかし、具現化の直前、巨体が再び迫る。

長盾は半透明のまま未完成で現れ、槍の衝撃を受けた瞬間、粉々に砕け散った。


「くそっ!」


距離を取るため、逆方向に走る。

礼拝堂の柱を盾に、相手の視線を切りながら呼吸を整える。

一撃で防具を砕かれるなら、正面からの受けは無理だ。


(……なら、斬り抜けるしかない)


脳裏で剣を描く。

さっきの獣を倒したときよりもさらに鋭く、薄く、速さを優先した刃。

完成した瞬間、俺は柱から飛び出した。


巨体の左側面、盾を持つ腕の下を狙う。

一瞬、槍の軌道が遅れた——そこだ。


「っ……!」


刃が黒い鎧を裂き、霧が噴き出す。

だが同時に、蒼い光点が俺を射抜いた。


「……不完全」


低く、不気味な声。

その瞬間、祭壇の小箱から青白い光が爆ぜ、礼拝堂全体を覆った。


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