第30話 響き合う未来
レガリア学院に戻った一行は、音の世界での体験を詳細に報告した。
学院長のグランディア教授は、長い髭を撫でながら報告書を読み、その重要性をすぐに理解した。
「音の世界との交流は、我々の魔法技術を飛躍的に向上させるでしょう」
教授の目が知的好奇心で輝いている。
「特に、虚無王対策においては革命的です。防御魔法に音の力を組み込めば、これまでにない強固な結界を作れるはずです」
その結果、新しく「音響魔法研究科」が設立された。
そして、その初代研究員として、キールたちのチーム全員が任命された。
ハルモニアも週に数回、美しい音符の姿で学院を訪れ、学生たちに音の魔法を教えることになった。
彼女の授業は常に満席で、音楽と魔法の新しい可能性に多くの学生が魅了された。
カコフォニクスは音の世界で「調和の賢者」として、二つの世界の架け橋となる研究を続けている。
数週間後の夕暮れ時。
「次はどんな世界と出会えるだろうか」キールが学院の中庭で、夕日を背にアリアと並んで歩きながらつぶやいた。
「きっと、私たちが想像もできないような素晴らしい世界があるよ」アリアが微笑んだ。
その笑顔は最初に出会った時よりもずっと明るく、自信に満ちている。
「でも、どんな世界でも、みんなと一緒なら怖くない」
後ろから追いかけてくるのは、いつものようにリオン、ユーリ、ヴィクター、セレナの四人。
そして今日からは、時折音符の形に変身して空中を舞うハルモニアも加わっている。
研究棟の窓からフィオナが手を振っており、遠くからカコフォニクスの美しいメロディーが夕空に響いている。
キールは思った。
戦争で全てを失った五歳の自分には想像もできないほど、今の人生は豊かで温かい。
両親を失った悲しみは消えないが、それを包み込んでくれる新しい家族ができた。
【エンボディメント】の力も、もう欠陥ではない。
むしろ、この力があったからこそ出会えた仲間たちがいる。
仲間たちとの絆があれば、どんな力も、どんな困難も、美しいものに変えられるのだから。
虚無王の脅威はまだ完全には去っていない。
しかし、音の世界との絆を得た今、きっとさらに多くの世界と手を繋いでいけるだろう。
光の世界、時の世界、夢の世界…無限の可能性が待っている。
そして最終的には、全ての世界が調和し、虚無という「無」に対抗できる日が来るかもしれない。
響き合う心、響き合う力、響き合う世界。
エンボディメント・レゾナンスの物語は、まだ始まったばかりだった。
空に最初の星が輝き始める中、七人の仲間たちは明日への希望を胸に、学院への道を歩き続けていた。
彼らの足音が作る小さなリズムは、やがて世界を包む大きなハーモニーの始まりだった。




