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第26話 音の世界

瞬間、世界が変わった。


目の前に広がったのは、これまで見たことのない美しい世界だった。


空は深い紫色で、まるで夕暮れと夜明けが同時に存在しているかのような神秘的な色合いを見せている。

雲は金色と銀色の輝きを放ち、ゆっくりと形を変えながら空を漂っている。

地面は透明度の高い美しい結晶でできており、歩くたびにかすかな音色を奏でる。


クリスタルの表面には虹色の光が反射し、足元から幻想的な光の波紋が広がっていく。

そして最も印象的だったのは、世界中に響き渡る美しい音楽だった。


「これは...」ユーリが息を呑む。

「音...音でできた世界?」


実際、この世界の建物も植物も、全てが音の振動によって形作られているようだった。

美しいメロディーが宙に浮かんで建物の骨組みを作り、複雑なリズムが道路を形成し、重厚なハーモニーが空を彩っている。


遠くに見える塔は、壮大なシンフォニーの音符が螺旋状に積み重なってできており、森は様々な楽器の音色が絡み合って樹木の形を成していた。

川のせせらぎは実際に美しいメロディーを奏で、風は和音を運んでいる。


「信じられない...」

アリアの【レゾナンス】能力が、この世界の音の調和と強く共鳴していた。


「全てが音楽で、全てが調和している。これほど美しい共鳴は見たことがありません」


しかし、その美しい世界の中で、一箇所だけ異質な場所があった。


そこだけ音が完全に止んでおり、まるで世界に穴が開いたような静寂の領域になっている。

その中心に、一人の少女が倒れていた。


「この子が...」アリアが駆け寄る。


少女は薄い水色の美しい髪をしており、その髪は音符のような輝きを持っていたが、今は光を失いかけている。

彼女の体は半透明になりかけており、まるで存在そのものが薄れていくようだった。

周りの音楽から切り離されることで、この世界での実体を保つことができなくなっているのだ。


「私は...ハルモニア」少女が弱々しい声で話す。


「この世界の...調律師でした。全ての音楽を調和させ、世界の平衡を保つのが...私の役目でした」

彼女の声は美しいが、とても弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。

「でも、不協和音の魔物が現れて...私の力を奪われて...このままでは、この世界の音楽が...全て...」

ハルモニアの体がさらに薄くなっていく。


彼女が消えれば、この美しい音の世界も崩壊してしまうのかもしれない。

キールの【エンボディメント】能力が激しく反応し始めた。

この少女を助けたい、この美しい世界を救いたいという強い想いが、具現化の力となって現れようとしている。


「アリア、一緒に」


キールが手を伸ばす。

アリアが頷き、二人の手が触れ合う。

その瞬間、【エンボディメント】と【レゾナンス】が融合し、これまでにない力が生まれた。


キールが音の形を創造し、アリアがそれを世界の調和と共鳴させる。


二人の力が合わさることで、失われた音楽が蘇り始めた。

美しいメロディーがハルモニアの周りに舞い踊り、彼女の体が再び実体を取り戻していく。

薄くなっていた彼女の髪が輝きを取り戻し、透明になりかけていた肌に血色が戻ってくる。

そして何より、彼女の瞳に希望の光が宿った。


「ありがとう...」ハルモニアが立ち上がる。


彼女の体はまだ完全ではないが、もう消えることはないだろう。

「あなたたちの力で、私は存在を保つことができました」

しかし、彼女の表情はまだ深刻だった。


「でも、まだ終わりじゃない」ハルモニアが遠くを見つめる。


「不協和音の王が、この世界を完全に支配しようとしているの。私だけでなく、この世界の全ての音楽を、全ての調和を破壊して、混沌の支配下に置こうとしています」

彼女がキールたちを見つめる。


「お願いです。私たちだけでは、もうどうすることもできません。あなたたちの力を...貸してください」

音の世界に新たな冒険が始まろうとしていた。


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