表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

第23話 新たな絆

対抗戦の後、キールたちは学院中の注目の的となった。


廊下を歩くたび、学生たちがひそひそと囁き合い、振り返って見つめていく。

それは好奇心に満ちた視線であり、尊敬の眼差しでもあった。

特に、虚無王の残滓を自らの意志で退けたことは、多くの魔法研究者の興味を引いた。


「これは前例のない現象です」


学院の最奥にある異界研究室で、グレイソン先生が分厚い報告書を手に話していた。

その鋭い緑の瞳は知的興奮に輝いている。


「虚無の力に精神的に打ち勝つということは、理論上可能でも実際には非常に困難なことです。君の精神力の強さは、異界研究において極めて重要な資質と言えるでしょう」


研究室の壁には無数の魔法陣が描かれ、棚には見たこともない魔導具や古い書物が並んでいる。

窓からは学院の中庭が見え、夕日が石畳を美しく染めていた。


「今後も様々な危険に遭遇するでしょうが」グレイソン先生は眼鏡を押し上げながら続けた。

「君たちなら必ず乗り越えられるでしょう。君たちには、単なる魔法の力以上のものがある」


キールとアリアは顔を見合わせた。二人の間に流れる共鳴の波動が、互いの安心感を運んでいく。


「正式に、異界研究科の特別研究生として君たちを認めます」


グレイソン先生から手渡された証明書は、美しい羊皮紙に金の文字で書かれていた。

これで、彼らは学院の正規の授業と並行して、最先端の異界研究に参加することになる。


「僕たちも参加したい」


リオンが明るい声を上げた。その青い瞳は冒険への期待に輝いている。

「異界の研究って、きっとすごく面白いことがたくさんあるね?」


ユーリも魔導具を調整しながら頷いた。

「技術的な観点からも、異界の魔法システムは非常に興味深いです。ぜひ研究に参加させてください」


こうして、四人の共同研究チームが正式に結成された。それぞれが持つ異なる能力と視点が、きっと研究に新たな可能性をもたらすだろう。


「これからもよろしくお願いします」

四人が円陣を組み、それぞれの手を重ねた。その瞬間、彼らの能力が微かに共鳴し、研究室の空気が温かくなったような気がした。


その時、控えめなノックの音が響いた。

「失礼します」


扉から顔を出したのはセレナだった。いつもの上品な物腰で、しかし少し緊張した様子で部屋に入ってくる。

「私も…参加させていただけないでしょうか」彼女の声は小さかったが、確固たる決意が込められていた。

「予知の力で、皆さんの研究をサポートしたいんです。危険な異界での調査でも、未来が見えれば少しは安全になるかもしれません」


「もちろんだ」キールが明るく答えた。

「君の力があれば心強い」

「ありがとうございます」セレナの顔に安堵の笑みが浮かんだ。


そして、最も意外な申し出が続いた。


「俺も混ぜてもらおう」

ヴィクターが研究室の扉を堂々と開けて入ってきた。その金色の瞳はいつもの不敵な笑みを浮かべているが、どこか真剣さも見える。


「君たちの研究、面白そうだからな。それに」彼は少し表情を緩めて続けた。

「仲間を見捨てるような男じゃないつもりだ」


六人のチームの誕生だった。


数日後、新しく割り当てられた研究室は、常に賑やかな場所となった。


「あなたたち、研究も大事だけど基本的な勉強も忘れちゃダメよ」

フィオナ姉さんが紅茶とお菓子を持って時々顔を出し、まるで母親のように世話を焼いてくれる。


「分かってるって、姉さん」キールが苦笑いしながら答える。

「本当に分かってるの?昨日も魔法理論の課題、提出するの忘れてたでしょ?」


研究室は笑い声に包まれた。


窓の外では、王都の街並みが夕日に染まっている。

石造りの建物が温かなオレンジ色に輝き、遠くの山々が紫色のシルエットを描いていた。


キールはその美しい景色を眺めながら、外れの森のことを思い出していた。

あの秘密の実験場。

アリアと出会った運命的な瞬間。

虚無王の脅威を知った恐ろしい体験。

あの小さな森から始まった旅が、こんなにも大きな世界へと広がるなんて、当時は想像もしていなかった。


「何か考え事ですか?」

アリアが隣に立った。夕日が彼女の栗色の髪を美しく照らしている。


「ちょっと昔のことを思い出してただけだ」キールは微笑んだ。

「辛い記憶ですか?」アリアの声には優しい心配が込められていた。


「いや…」キールは首を振った。

「むしろ、感謝してるんだ。あの出来事があったから、俺は今ここにいる。君と出会えたし、こんなに素晴らしい仲間たちと巡り合えた」


二人の間を、いつもの共鳴の波動が静かに流れた。

それは今や、単なる能力の現象ではなく、彼らの絆そのものの象徴となっていた。

心と心が響き合う、美しい調べ。


「これからも、一緒に響き合っていきましょう」アリアの瞳が夕日に輝いた。

「ああ、もちろんだ」


研究室では、他の仲間たちが明日の実験計画について熱心に議論している。

リオンの明るい笑い声、ユーリの技術的な説明、ヴィクターの鋭い指摘、セレナの的確な助言、そしてフィオナ姉さんの温かい注意。

この研究室は、彼らにとって新しい家族の場所となっていた。


夕暮れの王都に、大聖堂の鐘の音が響いた。

それは一日の終わりを告げる音であり、同時に新たな物語の始まりを告げる音でもあった。


異界研究はまだ始まったばかり。

きっと危険な冒険が待っているだろうし、想像もできないような困難にも直面するかもしれない。

でも、信頼できる仲間たちがいれば、どんな試練も乗り越えられるはずだ。


キールは手を伸ばし、アリアの手を優しく握った。

彼女も微笑んで握り返してくれる。


エンボディメント・レゾナンス。

創造と共鳴の力を持つ二人を中心に、新しい冒険が今、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ