第20話 対抗戦開幕
地下での戦いから三日後、年次対抗戦が開幕した。
学院の大闘技場は観客で埋め尽くされ、王国の貴族や高官も観戦に訪れている。
キールたちの功績は既に王都でも知られており、多くの注目を集めていた。
「緊張してる?」
控え室でアリアがキールに尋ねる。
「まあ、少しは」
リオンは治癒魔法のおかげで完全に回復し、ユーリは新しい魔導具を複数準備していた。
「初戦の相手は二年生チームです」
ユーリが対戦表を確認する。
「リーダーは『アイスメイジ』の異名を持つエリナ・フロスト。氷系魔法の専門家ですね」
「氷魔法か……」リオンが呻く。
「僕の加速技術、氷で足場を封じられると厄介だな」
「大丈夫です」キールが自信を込めて言う。
「俺たちには秘策があります」
第一試合が始まった。
対戦相手の二年生チームは、確かに手強かった。
リーダーのエリナは闘技場全体を氷で覆い、他のメンバーがその上を滑って自在に動き回る。
「【アイス・ドミニオン】!」
エリナの魔法で巨大な氷の壁が立ち上がり、キールたちの動きを制限する。
「分断作戦ですね」アリアが冷静に分析する。
「一人ずつ孤立させて各個撃破するつもりです」
「させるか!」
キールが【エンボディメント】で氷を砕く巨大なハンマーを創り出す。
しかし氷の壁は魔法で強化されており、簡単には壊れない。
「ユーリ先輩! 解析を!」
「分かった! 氷の結晶構造を調べてる!」
ユーリの【アナライズ】が氷の魔法構造を読み取る。
「弱点発見! 温度よりも振動に弱い!」
「振動……」キールが閃く。
「アリア、君の共鳴波動を氷に直接流せるか?」
「やってみます!」
アリアの【レゾナンス】が氷の分子振動と同調し、特定の周波数で共鳴させる。
氷の壁が内側から崩壊し始めた。
「何っ!?」
エリナが驚愕する間に、リオンが【アクセラレーション】で一気に距離を詰める。
「【ソニック・ストライク】!」
加速した剣撃が的確にエリナの魔法詠唱を阻止し、氷の魔法が解除される。
「第一試合、一年生チームの勝利!」
観客席から大きな拍手が起こった。
控え室に戻ると、ヴィクターが待っていた。
「なかなか見事だったな」
彼の表情には、ライバルとしての敬意が宿っている。
「だが、これからが本番だ。準決勝で君たちと戦うのを楽しみにしている」
準決勝の相手は三年生チーム、そしてリーダーはヴィクター・シュトラウス。
「彼のタレント【ドミネート】は、物質だけでなく魔力そのものも支配できます」
フィオナが作戦会議で説明する。
「つまり、ユーリ先輩やキールの創り出した構造体も、乗っ取られる危険があるということね」
「どうやって対抗すれば……」
「完全に支配される前に攻撃を完結させるか、あるいは——」
フィオナが意味深な笑みを浮かべる。
「彼が支配できないものを使うかね」
「支配できないもの?」
「生きている魔力、つまりあなた達自身の魔力の直接攻撃なら、支配されにくいはずよ」
キールとアリアは顔を見合わせた。
封印儀式の時のように、二人の力を直接融合させる——それは可能だが、極めて危険な技でもあった。
準決勝の日が来た。
観客席には王国の重要人物たちが詰めかけ、緊張感が最高潮に達している。
ヴィクターのチームは、全員が三年生の精鋭だった。
彼らの連携は完璧で、これまでの戦いを一方的に制してきた。
「始まりましたね」
アリアが深呼吸する。
「ああ……でも、俺たちなら必ずやれる」
キールの言葉に、仲間たちが頷く。
四人の絆は、これまでの訓練と実戦で確かなものとなっていた。
「試合開始!」
審判の声と共に、未だ見えぬ運命を賭けた戦いが始まった——。




