第19話 地下の脅威②
戦闘が始まった。
上級教官たちが強力な魔法を放つが、影たちはそれを軽々と回避する。
学生たちも果敢に戦うが、相手の力は想像以上だった。
「散開しろ! 連携を崩すな!」
ガルス教官の指示で、対策班が戦術的な配置に移る。
キールは【エンボディメント】で巨大な盾を創り出し、仲間を守ろうとする。
アリアは【レゾナンス】で影たちの動きを読み取り、攻撃を予測して警告を発する。
しかし、相手は単体でも強力な上に、完璧な連携を見せていた。
「このままでは……」
ユーリが解析結果を報告する。
「相手の魔力パターン、規則性があります! 中央の王冠の影が他の四体を制御しています!」
「なら、そいつを叩けば——」
リオンが【アクセラレーション】で加速し、中央の影に突撃する。
だが、王冠の影は軽く手を振っただけで、リオンの攻撃を弾き飛ばした。
「小賢しい……」
影の手から黒い光弾が放たれ、リオンを直撃する。
「リオン先輩!」
キールが盾を展開して追撃を防ぐが、リオンは壁に叩きつけられて動かなくなった。
「治癒魔法を!」
教官の一人がリオンに駆け寄る。
状況は絶望的だった。
対策班の半数が負傷し、残る者たちも疲労の色を隠せない。
その時——
「みんな、下がれ!」
突然の声と共に、食堂で見かけた上級生が現れた。
短い金髪に鋭い青い瞳——ヴィクター・シュトラウスだった。
「【ドミネート】!」
ヴィクターのタレントが発動し、封印庫内の破損した魔法アイテムが一斉に浮上する。
それらが武器となって、影たちに襲いかかった。
しかし、影たちはそれすらも容易く破壊してしまう。
「……厄介だな」
ヴィクターが舌打ちする。
「君たち新入生、何かアイデアはないか?」
キールとアリアは顔を見合わせた。
あの封印儀式の時のように、二人の力を組み合わせれば——。
「ヴィクター先輩、時間を稼いでもらえますか?」
「できるが……何をするつもりだ?」
「新しい封印を作ります」アリアが答える。
「ここで、今すぐに」
「正気か? ここは封印庫だぞ。失敗すれば——」
「やらなければ、どのみち学院が破壊されます」
キールの決意に、ヴィクターは黙り込んだ。
「……分かった。三分間稼ごう」
ヴィクターと残りの対策班が影たちを引きつける中、キールとアリアは新たな封印陣の構築を開始した。
だが今度は調和の結晶がない。
代わりに使えるのは——。
「ユーリ先輩! 魔導具で代用できませんか?」
「無理だよ! 調和の結晶に匹敵する魔導具なんて——」
その時、ユーリの目が輝いた。
「待てよ……君たちの魔力をダイレクトに使えば……」
ユーリは急いで工具を取り出し、その場で簡易的な増幅装置を組み立て始める。
「これで君たちの力を数倍に増幅できる! でも一度しか使えない!」
「分かりました!」
キールが史上最大の魔法陣を展開する。
それは封印庫全体を覆う巨大な立体構造で、無数の光の線が複雑に絡み合っていた。
アリアの【レゾナンス】がそれに同調し、ユーリの装置が二人の力を劇的に増幅する。
「今だ!」
巨大な封印陣が影たちを包み込む。
五体の影が抵抗するが、今度は逃れることができない。
「馬鹿な……この程度の封印で我らを——」
王冠の影の声が次第に小さくなっていく。
「忘れるな……我らは永遠だ……いずれ必ず——」
光と共に、五体の影は消滅した。
静寂が封印庫を支配する。
「……成功、したのか?」
ヴィクターが信じられないような表情で呟く。
キールとアリアは疲労で倒れ込んでいたが、満足そうに微笑んでいた。
「とりあえず……学院は救えたみたいですね」




