表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

第1話 外れの森の入口

外れの森は、昼でも薄暗い。

高く伸びた木々の枝が絡み合い、陽の光を遮っている。

地面には湿った苔が広がり、踏みしめるたび靴底から冷たさが伝わってきた。


ここに来るのは、もう何度目だろう。

俺は手にしていた枝で、行く手をふさぐ草を払いのけながら歩く。

森の奥へ進むにつれ、鳥や虫の鳴き声すら遠ざかり、静寂が支配していった。


「……間違いない、ここだ」


目の前に、黒く口を開けた洞窟が現れる。

岩肌には、封印解除の際に残されたであろう魔法陣の痕跡が、うっすらと輝きを帯びて残っていた。

かつてはただの静かな場所だったのに、今はどこか、生き物のように呼吸をしている気配がある。


数日前、領主直属の調査隊がこのダンジョンの封印を解いた。


俺は洞窟の入口に手を伸ばし、深く息を吸った。

まだ中に入るつもりはない。

準備もせず突っ込めば、ただの無謀だ。

今はまず、入口付近の変化を確かめるのが先だ。


右手の指先に意識を集中させる。

タレント——【エンボディメント】

頭の中で鮮明にイメージする。

長さ一メートルほどの金属製の探知棒。

素材は鉄、先端には淡く光る魔石を埋め込み、周囲の魔力の流れを感知できるように——


空気がわずかに震え、手の中に重みが生まれた。

視界の端で淡い光が揺れる。

作り出した探知棒を握りしめ、洞窟の方へかざす。


……反応あり。

封印は確かに解けているが、内部には複雑な魔力の流れが渦巻いていた。

生き物とも、罠ともつかない、不規則で落ち着きのない気配。


「やっぱり……普通のダンジョンじゃないな」


背後で枝が折れる音がした。

俺は反射的に振り返る。


「おーい、キール!」


現れたのは、領内の街に住む幼なじみ、レントだった。

背は低いが、口はやたらと達者な商人見習いだ。

肩にかけた荷袋から、やたらとガチャガチャ音を立てながら駆け寄ってくる。


「やっと見つけた! こんな森の奥まで来て、何してんだよ」

「……散歩だ」

「嘘つけ! どうせまた怪しい実験だろ? あのダンジョン、危ないって噂になってるんだぞ。王都からの調査隊も来るらしいし——」


レントの言葉に、俺は眉をひそめた。


王都からの調査隊。つまり、本格的な探索が始まるということだ。

そうなれば、この場所に自由に来られる時間は、そう長くない。


「……レント、俺、近いうちにここに入る」

「はあ!? お前正気か!? 中に魔物が出たらどうすんだよ」

「確かめたいことがあるんだ」


言葉はそれだけだった。


レントは何か言いかけたが、結局ため息をつき、袋から干し肉を取り出して投げてきた。


「せめてこれ食えよ。腹が減ってたら、逃げ足も鈍るからな」

「……ありがとな」


干し肉を受け取り、口に運びながら再び洞窟を見やった。

暗闇の奥から、何かがこちらを見返しているような気配がする。

それは、ただの思い込みかもしれない。

だが、心臓の鼓動は、妙に早くなっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ