第18話 地下の脅威①
学院は緊急事態宣言が発令された。
地下封印庫からは断続的に魔力の波動が放出され、建物全体が微震に見舞われている。
学生たちは寮に待機するよう指示されたが、キールたちには特別な要請があった。
「君たちの経験が必要だ」
ガルス教官が武装した姿で現れる。
「地下に向かう緊急対策班に同行してもらいたい」
「でも、私たちはまだ学生で——」
「虚無王の分身と実際に戦った経験があるのは、この学院では君たちだけだ」
対策班は総勢十二名。
上級教官三名、卒業直前の優秀な学生五名、そしてキールたち四名で構成されていた。
地下への入り口は、通常は厳重に封印されている。
だが今は扉が半開きになり、内側から黒い霧が漏れ出していた。
「魔力濃度が異常値を示しています」
魔導師の教官が測定器を確認する。
「内部環境も不安定化している可能性があります。全員、最大限の警戒を」
地下通路は想像以上に深く複雑だった。
石造りの通路が迷路のように入り組み、所々に古い魔法陣が埋め込まれている。
「この学院、いったいどれほど古いんだ?」
リオンが呟く。
「創立は三百年前ですが、基盤となった建物はさらに古いと言われています」
ユーリが答える。
「もしかすると、元々は別の用途の施設だったのかもしれません」
やがて一行は巨大な扉の前に到達した。
扉には複雑な魔法錠が施されているが、その一部が破損している。
「ここが封印庫の最深部です」
教官の一人が扉を調べる。
「内側から破られた形跡があります。何かが中から出てきた……」
扉の向こうから、微かな唸り声が聞こえてきた。
それは人間のものではない、何か別の存在の声だった。
「キール」
アリアが袖を引く。
「何か感じます。複数の存在……そして、とても強い憎悪の感情」
キールも同じものを感じていた。
あの時の灰色の影に似ているが、より邪悪で、より強力だった。
「扉を開けます」
教官が魔法で錠を解除すると、扉がゆっくりと開いた。
その向こうは——地獄だった。
封印庫は破壊し尽くされ、保管されていた魔法アイテムが散乱している。
そして部屋の中央では、五体の灰色の影が円陣を組んで立っていた。
それぞれが異なる姿をしている。
剣士、魔導師、弓兵、格闘家、そして中央には王冠を被った影——。
「虚無王の……分身たち」
キールが息を呑む。
中央の王冠の影が口を開いた。
「久しいな……『欠片』を持つ者よ」
その声は氷のように冷たく、聞く者の魂を凍らせるような響きを持っていた。
「我が分身を倒し、封印を強化したのは貴様か」
影の瞳が赤く光る。
「だが無駄だった。我らは既に十分な力を集めた」
五体の影が同時に武器を構える。
「今度こそ……この世界を虚無に還してやろう」




