第17話 暗雲
対抗戦まで一週間となった朝、キールは不安な夢で目を覚ました。
夢の中では、再び灰色の影と対峙していた。
だが今度は一体ではなく、無数の影が湧き出し、仲間たちを飲み込んでいく——。
「大丈夫ですか?」
廊下でアリアと顔を合わせると、彼女が心配そうに声をかけてきた。
「ああ、ちょっと悪夢を見ただけだ」
「夢の内容……聞かせてもらえますか?」
アリアの【レゾナンス】が軽く発動し、キールの心の状態を読み取る。
「虚無王の影響、まだ完全には消えていないようですね」
「影響?」
「あの欠片を体内に取り込んだとき、あなたの魔力回路に微かな変化が生じました。それが夢に現れているのかもしれません」
「そうか……もう一つの欠片は俺の中に……」
二人が朝食のために食堂に向かうと、いつもより静かな雰囲気だった。
学生たちが小声で何かを話し合っている。
「何かあったのかな?」
リオンがテーブルに座ると、隣の学生が振り返った。
「昨夜、学院の地下で異常な魔力反応があったそうです」
「地下?」
「詳細は分からないけど、教官たちが緊急招集されて……」
その時、食堂の入り口にグレイソン研究員が現れた。
彼の表情は深刻で、キールたちを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「君たち、すぐに私の研究室に来てください」
研究室は普段より慌ただしく、複数の教官が魔法陣の分析に追われていた。
「昨夜の件ですが……」グレイソンが重い口調で切り出す。「学院地下の封印庫で、魔力の暴走が発生しました」
「封印庫?」
「危険な魔法アイテムや禁忌の研究資料を保管している場所です。しかし問題は——」
グレイソンが机の上の報告書を指差す。
「暴走の原因となった魔力波動が、君たちが封印した虚無王のものと酷似していることです」
キールとアリアは顔を見合わせた。
「でも、虚無王は確実に封印したはずです」
「ええ、それは間違いありません。しかし……」
グレイソンは別の資料を取り出す。
「虚無王に関する古い記録を調べたところ、興味深い記述を発見しました」
資料には古代文字で何かが書かれている。
「『虚無王は一つにして多数。分身を各地に配置し、一つが倒れても他が力を引き継ぐ』……」
「つまり、他にも分身がいるということですか?」
「その可能性が高いです。そして昨夜の反応は——」
突然、研究室の魔法陣が激しく点滅した。
警報音が鳴り響き、教官たちが慌てて術式を確認する。
「地下で再び異常発生!」
「今度はより強い反応です!」
グレイソンの表情が青ざめる。
「まずい……封印庫の最深部で何かが起きている」
その時、セレナが研究室に飛び込んできた。
「グレイソン先生! 予知で見ました!」
彼女の瞳は紫色に輝き、恐怖に満ちていた。
「地下に……灰色の影が現れます! それも一体や二体ではありません!」




