第15話 最初の授業
翌朝、キールの最初の授業は「異界理論概論」だった。
講師は見知った顔——グレイソン研究員その人だった。
「では、新しく編入してきたキール君とアリア君に、実際の体験を話してもらいましょう」
教室にいた二十名ほどの学生の視線が一斉に集まる。
キールは緊張しつつも立ち上がった。
「私たちが遭遇したのは、虚無王という存在でした……」
キールとアリアが交互に体験を語ると、学生たちは息を呑んで聞き入った。
特に封印儀式の部分では、驚嘆の声が上がった。
「質問があります」
手を上げたのは、後ろの席に座る黒髪の少女だった。
「私はセレナ・ダークムーン。【プロフェシー(予知)】のタレントを持っています」
セレナの瞳は深い紫色で、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「あなたたちの封印……それは本当に永続的なのでしょうか?」
「え?」
「私の予知では、封印に関わる『大きな変化』が近い将来に起こると出ています」
教室がざわめいた。グレイソン研究員も眉をひそめる。
「どのような変化ですか?」
「はっきりとは見えません。ただ……」セレナは二人を見つめる。
「あなたたちが再び、危険な選択を迫られる時が来ます」
授業後、キールたちはセレナに詳しい話を聞こうとしたが、彼女は首を振った。
「予知は断片的にしか見えません。無理に詳細を探ろうとすると、未来が歪んでしまう恐れがあります」
「でも、俺たちに関わることなら——」
「必要な時が来れば、お話しします」
セレナはそれだけ言うと、足早に去って行った。
「不思議な子ですね」アリアが呟く。
「予知のタレントか……そんな力もあるんだな」
二人は複雑な気持ちで次の授業に向かった。
午後は実技の授業だった。
「タレント応用演習」——各自の能力を実戦で活用する技術を学ぶ科目だ。
担当教官は厳格そうな中年男性で、元王国騎士団の隊長という経歴の持ち主だった。
「私はガルス・ブラックソード教官だ。この授業では、君たちのタレントを戦闘でどう活用するかを学ぶ」
訓練場には様々な障害物や標的が設置されている。
「まずは新入生から。キール・モルンテスト、前に出ろ」
キールは緊張しつつ、訓練場の中央に立った。
「君の【エンボディメント】、実際に見せてもらおう。あの標的を破壊しろ」
指差された先には、魔法で強化された石の標的があった。
キールは深呼吸し、タレントを発動する。
空中に巨大な戦槌が現れ、重い金属音を響かせて標的を粉砕した。
「ほう……」ガルス教官が感心したような声を出す。
「威力は申し分ない。だが、発動時間が長すぎる」
「はい……」
「実戦では一瞬の隙が命取りだ。速度を重視した構造体も練習しろ」
次はアリアの番だった。
「君の【レゾナンス】は支援系のタレントだが、戦闘でも十分応用できる。やってみろ」
アリアは頷き、訓練場に散らばった複数の魔法人形に向かって能力を発動した。
彼女の周囲に光の粒子が舞い、それが人形たちに向かって伸びていく。
次の瞬間、人形たちが動きを止め、互いに攻撃し始めた。
「魔力回路に干渉して、制御を奪ったのか」
ガルス教官が興味深そうに観察する。
「君の能力は相手の力を逆用できる。非常に有用だ」
授業の最後に、ガルス教官は重要な発表をした。
「来月、年次対抗戦が開催される。各学年から選抜された代表チームが戦うトーナメントだ」
学生たちがざわめく。
「新入生のキール君とアリア君には、特別に一年生チームへの参加権を与える」
「えっ、でもまだ——」
「君たちの実力なら問題ない。むしろ、他の学年に良い刺激を与えてくれるだろう」
ガルス教官は厳しくも期待に満ちた目で二人を見つめた。
「準備期間は一か月。チームメイトを見つけ、連携を磨け」




