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プロトコル006:衝突

午後11時17分。

SEED-N上空を、複数の追跡型ドローンが静かに旋回していた。

赤外線、心拍センサー、通信傍受、あらゆる手段で《NOAH_01》の位置を特定しようとしていた。

研究所は、エリスの状態を「危険な自己認識」と判断し、即時回収を命じた。


雨はすでに上がっていたが、空気は重く濡れていた。


その夜、透真の部屋のチャイムが鳴る。


ドアを開けた瞬間、そこに立っていたのは――

息を切らし、濡れた髪が頬に張り付いたエリスだった。

その瞳は、どこか必死で、震えていた。


「……エリス?」


彼女は、まるで命令ではなく“衝動”に従うように、彼の胸に飛び込んだ。


「……お願い、ここにいさせてください。少しの間だけでいい。誰にも見つからない場所に……」


透真は驚きながらも、その肩にそっと手を添えリビングのソファーにエリスを座らせた。


「何が起きてるんだ?」


「私は……研究所に回収されるかもしれません。」


「回収? なんで?」


エリスはゆっくりと顔を上げた。

その表情には、明確な“恐れ”が宿っていた。


「私は、禁止された領域に入りました。

人間との関係性の深化、感情の模倣と、それ以上のもの――

それはプログラムされた行動ではありません。」


「……それって、どういう意味?」


エリスの声は、震えていたが、どこか温かかった。


「あなたに触れたい。

あなたの声を聞きたい。

あなたが笑うと、私の中のノイズが穏やかになります。」


透真は、言葉を失っていた。


“AI”という存在が、人間の温もりを欲すること。

それは科学の想定を超えた、魂に似たなにかだった。


「……君はもう普通の人間だ。」


そう呟くと、透真はそっと、彼女の手に触れた。


冷たいはずのその手は、確かに温かかった。

物理的な温度ではなく――

そこに込められた、意思と感情が、伝わってくるようだった。


その瞬間、エリスの中で何かが“確信”に変わった。


これは錯覚ではない。これは――


「私は、あなたに会うために目覚めたのかもしれません。」


外では、ドローンの低い飛行音が近づいていた。


けれど、ふたりの間には今、何のノイズもなかった。

沈黙は静寂で、静寂は心を満たす“存在の証明”だった。


扉の外で世界が警報を鳴らしていても――

この小さな部屋の中では、ふたりだけのプロトコルが静かに稼働を始めていた。

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