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23話 止まない襲撃

 静乃が〈裏店(うらだな)〉にやってきて一週間が過ぎた。

 今日も隅田村に妖魔が出現したとの報告があり、静乃たちは出撃している。

 隅田村には(つるぎ)一刀太(いっとうた)青瀬(あおせ)明星(みょうじょう)が待機しており、〈裏店〉総出の大仕事である。


 静乃は小毬と並んで千景の戦いを見ていた。

 率先して敵と戦う室長の姿は勇猛で、凄惨な美しさを感じさせる。


 相手は拷魔(ゴウマ)だ。静乃も何度となく戦った相手。俊敏な動きで千景を翻弄しようとするが、そんなことで動じる人間ではない。難なく相手の動きに追いつき、斬り伏せた。


「浄化」


 千景は倒れたゴウマの額に護符を貼りつける。妖魔は光の粒になって消えていく。


「やっぱ千景様の動きは美しいですねえ。ほれぼれしちゃいます」

「ゴウマ程度に遅れは取らんさ。次はどこだ」


 小毬が猫耳をピクピクさせる。


「こちらです」


 走り出した小毬を静乃は追いかける。

 荒川からほど近い空き地に次の妖魔の姿があった。


 十本の腕を持ち、すべての手が刀を握っている女の妖魔――刀塚姫(トツカヒメ)だ。

 鬼女のごとき吊り上がった目と、口から飛び出した牙。腕は側面ではなく背中から生えている。足はなく、カタツムリのような形をしたうごめく砂によって移動している。まさしく異形。


「二等級妖魔の中でも限りなく一等級に近い相手だ。静乃、手伝ってくれるか」

「わかったわ」

「シズシズ、大丈夫なんですか? 素手で刀に挑むなんて……」

「安心して。最近、新しい戦い方を覚えたから」


 トツカヒメが甲高い叫び声を上げた。

 十本の刀を振り回して突っ込んでくる。

 静乃と千景は左右に跳んで、挟み撃ちの体勢を取る。

 千景が積極的に切り込んでいく。今日は日本刀だけでなく、もう片方のサーベルも抜いていた。二刀流で五本の刀に対応してみせる。数で負けていても、技術がそれを上回る。千景は刀を振り払ってトツカヒメを押していく。


 ――わたしだって、できる。


 静乃が接近すると、右側五本の刀が襲ってきた。


 ――白蛇(はくじゃ)様、力をお貸しください。

 ――任せよ。見事、敵を祓ってみせるのだ。

 ――もちろんです!


 静乃の両腕に鱗のような紋様が浮かび上がる。刀が直撃するが、硬い音がして刀身がはじかれた。


「高貴なる白蛇様の鱗よ。この鎧、破れるかしら」


 ホノカガチに取り込まれて二等級妖魔に堕ちていたとはいえ、元は長寿の蛇であった。それだけに溜め込んでいた霊力もかなりのものだったのである。


 トツカヒメはすべての刀が相手に通らないため、かんしゃくを起こしたように力任せに刀を振るった。静乃は両腕で受け、千景は二刀流で受ける。


「千景さん、とどめは任せるわ!」

「おう!」


 静乃は飛び上がってトツカヒメの顔面に強烈な右拳を叩き込む。トツカヒメの巨体が吹っ飛び、仰向けに倒れた。千景がすでに走り出していて、護符を貼りつけることに成功する。相手はこれまでの妖魔より強力だ。浄化に少し手間取ったが、無事、光の粒に変わっていった。


「す、すごいですねえ……。あれほどの妖魔も苦もなく一方的に……」


 小毬は(ほう)けたような顔をしていた。一方千景は満足そうだ。


「半妖の戦い方をだいぶ覚えたようだな。これならもっと強い妖魔が出てきても対処できる。確信が持てたぞ」

「ええ、白蛇様が教えてくれるからすごくありがたいわ」


 ――もっと讃えよ。


 心の中で声が聞こえる。白蛇様は褒められるのが大好きなのだ。


 ――ありがとうございます。白蛇様のお力、本当に素晴らしいです。

 ――ふふふ、そうであろう。我がいる限り、お主が妖魔に負けることはありえぬ。


 顔は見えないのに、舌をチロチロさせて喜んでいるのが目に浮かぶようだ。


「千景さんこそ、生身の体でよくあれだけの相手と戦えるわね」

「鍛え方が違うからな。静狩の名を背負っている以上、情けないところは見せられん」


 土手の向こうから剱一刀太が歩いてきた。身の丈ほどもある野太刀を持っている。


「うっす、こっちも片づきましたよっと」


 村の方からは狙撃銃を担いだ青瀬明星がやってくる。


「お疲れ様です……。妖魔の殲滅、完了しました……」


 相変わらず小さくて疲れているような声だ。


「しかし今日の襲撃はえげつなかったっすねえ。同時に六カ所。しかも複数体出てきた場所もある。ほんとに異常っすよこれ」

「隅田村分室の浄魔師たちは対応できたのか」

「確認しましたが、人数で押し切ったようですね……」

「ま、等級の高い奴らは俺たちが引き受けたんで大丈夫でしょ」

「苦労をかけるな」

「いえいえ。その分お給金をはずんでもらえりゃなんでもいいっすよ」

「もちろんそのつもりだ」

「やったぜ」


 村の中央が騒がしい。まだ鎮圧宣言がなされていないので、住民も浮き足立っているのだろう。


「よし、いったん撤収して様子を見る。明星、監視を頼む。一刀太ももう少し警戒に当たってくれ」

「承知いたしました……」

「了解っす」

「そのうち長期休暇をやるから今は勘弁してくれ」

「妖魔が出るまではのんびりしてるんでお気にならさず」

「疲れるほどのことではありません……」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「あの、青瀬さん……」


 静乃はおずおずと切り出す。


「灰崎の家がどうなっているかわかりますか?」

「ええ……。浄魔会本部の応援を迎え入れて妖魔の迎撃に当たっています……。あなたの父上が統括していますね。家族が庭を歩いている姿も確認しました……」


 心からホッとした。父が水鈴と母に暴力を振るうようなことは起きていないようだ。


「異変があったらすぐに報告しますので、静乃さんは安心してお過ごしください……」

「ありがとうございます」


 一刀太と明星に挨拶をし、静乃、千景、小毬の三人は〈裏店〉の拠点へ戻ることになった。幽貴の車に乗り込み、夕暮れの道を行く。


「このままでは埒が明かん。なんとか襲撃の原因を見つけ出さないとな……」


 隣の座席で千景がつぶやく。

 静乃は彼の戦いぶりを思い返した。勇猛果敢で、刀を振るう姿は獰猛かつ美しい。


 ……こんなにすごい人と一緒に戦えるのは光栄ね。


 仲間と協力して妖魔を倒すということ。今までの自分には縁のない話だった。それができるようになったことも前進だ。

 襲撃の多さは心配だが、前向きにとらえられることも増えている。千景と一緒にこの異変を解決する。できたら素敵だろうな、と静乃は思った。

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