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【2】②

 二人で楽しそうに会話しながらも、かおりは合間に佳純に目線や声を向けるのを怠らなかった。

 佳純が疎外感を覚えないようにとの気配りなのはもちろんわかっている。

 ずっと年下の佳純にも、彼女は義兄や両親に対するのと同じ柔らかな笑みを向けてくれていた。

 心温かい人。

 家での会話の中で、かおりは博己の置かれていた状況、──実母を亡くして叔父夫婦に引き取られ、従妹である佳純と『兄妹』として育ったのもすべて承知だと知らされた。

 その上で博己の妹として佳純に接してくれている。


「わたし兄と弟がいて、ずっと妹が欲しいと思ってたの。仲良くしてくれると嬉しいわ」

「……はい。あたしもお姉さん欲しかったんで嬉しいです」

 義兄が愛したのが、こんな素敵な女性でよかった。

 そう感じているのも間違いないのに、何故か心に靄が掛かっているような気がする。


「あら、おかえり。ご飯は?」

「……要らない。カフェでちょっと食べたし。なんか疲れちゃった」

 二人と別れて帰宅した佳純を迎えてくれた母に、緩慢に首を振る。

 そのまま自分の部屋に向かい、ベッドに身体を投げ出した。

 とっておきのお洒落なワンピースが皺になる。

 まずは着替えて、普段より念入りなメイクも落とさなければ。

 頭では冷静に考えているのに、どうしても動くことができなかった。


「ズルいよ、お兄ちゃん」

 知らず声が漏れてしまう。

 佳純の『男』の基準は、ずっと博己だった。

 レベルを上げるだけ上げてあっさり梯子を外されたような、というのは、いくらなんでも被害妄想だとわかってはいるのだが。

 中高は共に公立の共学校だったし、大学に入ってからも当然ながら周りに同年代の男子は多い。

 友人として喋ったり遊んだりする分には何も問題はなかった。そこに性別は必要以上には介在しないからだ。

 しかし、少しでも恋愛感情を混ぜられると一気に冷めてしまうのだ。

 無意識に博己と比べて不合格の烙印を押してしまう自分に、佳純は逆に戸惑っていた。


 彼は共に生きる伴侶を見つけた。

 結婚したら、義兄の家族は妻である彼女だけになる。子どもが生まれたらその子も加わる。

 ……佳純は単なる『親族』でしかなくなるのだ。これは仮に実妹だったとしても変わらない。

 かおりがもっと嫌な女ならよかった。それなら心置きなく憎めるのに。

 けれど佳純の頭を過った醜い感情は、ほんの一瞬で泡のように消えた。

 敢えて言葉にするまでもなく、佳純は博己の不幸を望んでいるわけではない。大好きな「お兄ちゃん」には、誰よりも幸せになって欲しいというのが掛け値なしの本音だった。

 そのために己が苦しい思いをするとしても。


 だから、これをいい機会(チャンス)だと捉えなければ。

 白馬の王子さまは、ただぼんやりと待っていても向こうから来てはくれない。義兄とは違って。

 二十歳になった佳純は、それぐらいとうに気づいている。


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