第三話 異世界初日、文無し宿無し神あり。
「とにかく、まずはギルドに行かないといけない」
異世界に降り立った智也と神は早速、目の前の街へと向かっていた。その道中で神が異世界について軽く説明し始める。
「ギルドに冒険者登録して、ギルドからの依頼を受注する。依頼を完了して、報酬を得る。それが基本の流れだね」
「なるほど。そもそも、ギルドで冒険者登録をしないと依頼を受けられず、お金を稼げないってわけね」
理解した様子の智也に、神がぴっと指をふる。
「そゆこと。私達は今一文無しだから、とりあえずは今日の宿代を、最悪飯代だけでも稼がないといけない」
「うわ、確かに。割とやばい状況じゃん」
なんとなく異世界に来て浮かれていた智也だが、このままでは行き倒れてしまうという現状に急に不安になる。
「まぁ大丈夫大丈夫、なんとかなるよ。ギルドに行けば、なんだかんだしご......依頼の一つくらいはあるもんだから。まずは簡単な依頼を受けて日銭を稼ごう」
神はなんとか仕事をクエストと言い換えることに成功した。へたに仕事などと発言して、また智也の様子がおかしくなってもめんどくさい。
「ほんとに?あーなんか緊張してきた」
異世界人とまともにコミュニケーション取れるのか?本当にお金を稼げるのか?智也の頭が不安で満たされてゆく。
「ねぇ神、《コミュ力》ってチート無かったっけ。なんか、とりあえずコミュ力さえあればなんとかなる気がするんだけど」
「そんなチート無ぇわ!」
「そんなぁ~」
納得がいっていない智也に、神があきれて諭す。
「あのね智也くん、信じがたいかもしれないけど、ある程度のコミュ力はみんな持ってるものなんだよ。つまり、コミュ力はチートでも何でもないの」
「嘘だ!!!」
智也の心からの叫びが道にこだまする。
などと話しているうちに、いつの間にか智也達は街の前まで歩いていた。
・・・・・・・・
ここは、とある街のギルド。数多くの冒険者が依頼を受けにやってくる場所である。
大小様々な依頼が舞い込んでは、それを冒険者が受注していく場所だ。
建物の中に食堂もあり、冒険者以外の人々もよくこの場所を利用している。そのため、ギルドはいつもそれなりの賑わいをみせていた。
昼下がり、朝の忙しさも鳴りを潜め、ギルドを利用する人もまばらだった。今さらクエストを見に来たねぼすけ達と、今日は休む事にして昼間から飲んでいる者達がちらほらいるのみだった。
「なんか、平和って感じね」
受付嬢も、弛緩した空気に当てられてつい独り言が口から滑り落ちる。
「ちょっとぉ先輩、暇ならこっち手伝ってくださいよ~」
それを聞いた後輩が、飲んだくれ共に食事を運びながら手伝いを要求してくる。
「全くもって暇じゃないわ、仕事中よ。ここで冒険者か依頼者が来るのを待つのが私の仕事なの」
それを軽くあしらい、受付嬢はまたぼんやりと待つ作業に戻るのであった。
そんな時、扉を開けて誰かが入って来た。見ると、顔の整った男と気弱でまぬけそうな顔の男がギルドに入ってきていた。初めて見る顔だった。二人とも見慣れない奇抜な格好をしている。
旅人かしら?依頼に来たのか、それとも冒険者の登録に来たのかしら。
「や、やばい。なんか緊張してきた。神、先に冒険者の登録してよ」
え?今、気弱君、隣のイケメンの事を神って呼ばなかった?
二人はギルドに入ってそうそう、ひそひそと入口で話しだした。しかし、入り口に近い場所にいる受付嬢にはその話し声が聞こえてしまっていた。
......いや、まぁ、流石に聞き間違いでしょう。まさか人に対して神なんて言う訳が無いわ。そんなやばい奴そうそういないわ。
「いやいや、なにに緊張してるの。君が先に行くべきでしょ」
「そこを何とか、頼むよ神ぃ」
「しょうがないなぁ。一緒について行ってあげるから。ほら、行こう」
聞き間違いじゃなかったわ。確実にイケメンのことを神って呼んでるわ。しかも、イケメンもそれが当然のような反応だし。こいつら確実にやべー二人だわ。
私が内心二人をやばい奴認定していると、二人は一緒にギルドの受付にやって来た。
「す、すみません、あの、冒険者登録に来たのですが......」
「はい、冒険者登録ですね。では、登録証を作成いたしますので、お名前を教えてください」
私はいつもどおり笑顔を張り付けて事務対応する。たとえやばい奴でも、テンプレ通りに対応するだけよ。
「あ、............ら と............です」
気弱そうな男性はごにょごにょと小声で喋る。
「え?す、すみません、もう一度お願いします」
「......ら と......です」
「えっと......?ラット様、でしょうか?」
しまった。ラットなんて名前の訳が無かったわ。私は発言してすぐ、今のは失言だったと後悔した。
「そうです。こいつの名前はラットです」
私が改めて名前を聞こうと思ったら、気弱君を制して、横にいたイケメンがラットである事を肯定する。
え?ホントにラットなの?
「ちょっとぉ!」
イケメンの発言に抗議する様子の気弱君。
あ、やっぱりラットでは無いのね。
「なに言ってんの!?」
「君の名前はこっちの世界では目立つよ。むしろ、ラットのほうが良いって」
「な、なるほど?そうなの?でもラットはダサくない?」
「いやいや、ラットって、君にぴったりじゃん」
言いながら、イケメンが堪えきれないといった様子でクスクス笑う。
このイケメン、顔はいいけど性格は悪いかもしれないわね。
「おい!神!笑い過ぎだぞ!.」
「え?神?」「神?」「今神って......」
その様子に気弱くんが怒り、つい興奮して声が大きくなってしまった。気弱君の神という言葉が静かだったギルドに響き渡り、にわかにギルド内がざわつく。
その様子を感じ取った気弱君が、声を落としてイケメンに話しかける。
「あ、もしかして、神の事を神って呼んだらよくない?」
「そうだった」
イケメンも、しまった、みたいな顔で返事をする。
いや、『そうだった』じゃないわよ。なんで、ついうっかりしちゃってたみたいな反応なのよこいつら。
「いや、そりゃそうだよな。神って呼んでたら変だな」
「まぁ、確かに呼び名としては珍しい。けどそれだけじゃなくて、この国の人は信心深い人が多いから、神を騙るのはかなりまずいかも知れない」
「おいまじかよ」
二人はしばしひそひそと話し合った後、突然大きな声で会話しだした。
「いやー、まぁ、その、ね。えーっと......かみ......噛みつくぞ!みたいなね!」
「そうなんだよ!彼......ラット君は怒るとすぐに噛みつく癖があるんだよね!それでラットって名前なんだよ!」
「そうそう!」
なにやら苦しい言い訳を大声でし始める二人。なんかもうどうでもいいので登録を早く終わらせたい。
「えーっと、すみません、それでお客様のお名前はラット様、でよろしいでしょうか?」
私は改めて気弱君の名前を確認した。
「あ、はい、そうです。ラットです」
気弱君は流れで、ラットと言う登録名になった。ホントにこの名前でいいの?
「承知しました。それでは、ラット様で冒険者登録させていただきます。そちらのお方も冒険者登録されますか?」
私は内心不安に思いつつも、仕事を進める。次は横のイケメンね。
「あ、お願いします」
「お名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」
「ナゴヤです」
後ろで驚いた顔をしているラット。もしかして初めてイケメンの名前を聞いたのかしら?......今までずっと、イケメンの事を神って呼び続けていたってこと?
私はそんな恐ろしい想像を振り払い、笑顔を顔に張り付けて対応する。
「ナゴヤ様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「承知しました。それではお二人の冒険者登録をいたします」
私はそこまで言うと、新しい登録証を取り出し、それぞれに魔力を込めた。すると、何も書いていなかった登録証に名前が浮かび上がる。
「どうぞ、お二人の冒険者登録証です。依頼の受注などの際に必要になりますので、大事にしてください」
出来たばかりの登録証を二人に手渡す。
「あ、ありがとうございます」「ありがとうございます」
「それでは、これからのご武運をお祈りします」
「あ、は、はい」
「よし、じゃあラット君!早速依頼を見に行こうよ!」
「え、あ、うん。......お前順応が早いな」
そうして、二人はギルドの依頼掲示板へと向かって行った。
・・・・・・・・
早速、掲示板の前に移動するラットとナゴヤ。
「えーっと、とりあえずすぐに受けられそうな依頼は......」
掲示板を見て依頼を物色するナゴヤ。
「ていうか、お前ナゴヤって名前だったんかい!」
「いや、違うけど?」
ラットの指摘にすました顔で否定するナゴヤ。
「え?違うの?」
「偽名だよ。か......は、真名を隠すものなんだよ」
あまり堂々と神と言うと、また騒ぎになってしまうので、ナゴヤはその言葉を少し伏せて発言する。
「ふーん。この国の人は信心深いらしいけど、ナゴヤ見てもなんともないじゃん」
「まぁ、私、今はちょっと姿を変えてるし、それにこの国でおもに信仰されてる宗教のか......じゃないから」
「え?そうなの?ナゴヤはマイナーな宗教のってこと?」
「マイナー言うな!まぁ、ちょっと信者の数はかなり少ないけど......」
「マイナーじゃん。ちなみに、ナゴヤの宗教の教義は?」
ラットは、興味本位でナゴヤの宗教の事を聞いてみた。
「自由・悦楽・混沌」
「いや邪教じゃねぇか!」
まじめな顔でいかにも邪教っぽい単語を並べるナゴヤ。
「邪教ゆうな!信者達はみんなまじめで良い子だから!」
自由は良い。悦楽も、まだ許せる。でも混沌がなぁ......。ちょっと悪側すぎるよ。悦楽と混沌が一緒にいると、自由君までなんか悪そうに見えてくるもん。
むしろ、普通宗教って真逆で、忍耐・節制・秩序とかじゃないのか?
「......まじめで良い子って、まじめに自由・悦楽・混沌を実行してんの?」
「うん」
神の返答を聞いてラットは、出来ればその宗教の奴らとは関わりたくないと思った。
「っていうか、話の腰を折ってごめん、どの依頼を受けるか問題の話だよ。俺もナゴヤもこのままじゃ野垂れ死んじゃう」
つい、いつものくせでラットとナゴヤは雑談してしまっていたが、ラットは久々に感じている空腹感で今が切羽詰まっている状況という事を思い出した。
「そういえばそうだ」
露骨に話を変えららたことをナゴヤは察したが、実際に今が切羽詰まっているのは事実なのでぐっと飲み込んだ。
ナゴヤは、また今度しっかり我が宗教の素晴らしさを教えてあげようと思った。
「ちなみに、神パワーで何とかなるとかある?」
ラットは声を押さえてナゴヤに耳打ちする。
「ないね。神と共に行動する系のあるある通り、神は本来の力をかなり使えない状況です」
「ですよね!流石にここで神も何でも出来たら俺がチート使える意味が無くなっちゃうもんね!」
「そうそう。今は私も一つだけチートを使えるだけだよ」
「え?何使えるの?」
「まだ秘密。『その時』が来ればわかるさ」
「なんだよ、教えてくれてもいいじゃん。......で、よさげなクエストはあった?」
「いますぐ出来そうなのは納品クエストかな。街の外の草原で集められるやつは......。逃げネズミの尻尾、蹴りウサギの足、カサコウモリの羽とかだね」
「いいじゃんいいじゃん、いかにも低級モンスターっぽい。行こう行こう」
せっかく異世界に来て冒険者になったのだ。ラットはとにかくバトルがしてみたかった。
「よーし!じゃあ、早速準備だ!初心者は受付で装備の無料貸し出ししてるから、それを貸してもらおう!」
「なんか、無料貸し出しって凄い組合っぽいね」
などと言いつつ、ラットとナゴヤは受付へ向かった。
「すみませーん、装備の無料貸し出しをお願いしたいのですが......」
「はい、では、冒険者証をお願いします」
受付のお姉さんに先ほど作ってもらった冒険者証を見せる。
「はい、確認しました。どうぞ、すねあてと木の棒です。今日中に返却して頂かないと、延滞料が発生するのでお気を付けください」
「ありがとうございます」
いや、延滞料とか、このしょぼい装備の感じとか、なんかまじで町の支給品って感じだな。
「じゃあ私も......」
「ちょっといいかしら?」
ナゴヤが装備を貸してもらおうとしたその時、美しい鎧を着ている女騎士がナゴヤに声をかけた。
「はい?」
「あなたがナゴヤさん?」
「そうですけど......」
「先ほど、あなたが神の名を騙ったという話を聞いたのですけど、本当かしら?」
あ、まずい。なんか治安維持してる騎士団的な人だ。さっき俺が神って呼んだから、それを誰かが密告したらしい。どうやら想像以上にこの国において神を騙るというのは罪が重いようだ。
ラットは国家権力に目をつけられているらしい状況に気が気で無かった。
「いえ、誤解です誤解です!」
必死に弁明するナゴヤ。本当は本当に神なのに、なんかかわいそう。
「本当に?ちょっと、その時の状況を聞いても?」
まずい、これは結構時間が掛かりそうだぞ。
ラットは前世で数回職質を受けた経験があり、時間が掛かるパターンの職質が見分けられるようになっていた。
今日を生きる日銭を稼がねばならない俺達にとって、時間を取られるのはまさに死活問題だ。
「はい、わかりました」
素直に女騎士に返答しつつ、ナゴヤは手振りで『先に行ってて』と伝える。
ラットは『わかった。頑張れ』と身振りを返すと、一人街の外の平原へモンスターを狩りに向かった。
・・・・・・・・
街の外、最初に降り立った街道から横にそれた平原で、ラットは早速大きいコウモリに出会った。
こいつが、さっきナゴヤが言ってた『カサコウモリ』に違いない!ラットは早速貸し出された棒で殴りかかる!
「うおおおおおくらええええええ!!」
しかし、力一杯に振った棒は空を切るのみであった。
カサコウモリはそのままどこかへと飛んで行く。
「逃げるなああああ!戦ええええ!」
少し追いかけてみるも全く追い付けず、ラットは走り回ってただ疲れただけだった。
「だぁめだ。空飛んでる相手に棒振り回しても当たんないよ」
ラットは今度はうさぎを探す。さっきの話では、『蹴りウサギ』ってのも納品クエストにあったはずだ。
息をひそめて草むらを見回す。
......いた!草むらの一部が不自然に揺れている場所をよく見るとウサギがいる。
そーっと近寄り、棒を素早く振り下ろす!が、手ごたえ無し!ウサギは素早く走り出していた。
「待てやあああああ!今日のメシいいいいい!」
逃げ出すウサギを追うラット。職質を受けてるナゴヤのためにも、俺が今日の飯代を稼がないと!このままじゃ二人とも行き倒れる!
ウサギを追いかけていくと、地面の穴の中に入って行った。
「巣穴か?」
穴の前に立つラット。その時、うさぎが入って行った穴の中から、白いものが這い出してきた。
「ん?」
白いものはもぞもぞと這い出て来たと思ったら、その場で直立した。それは、身長3mはあろうかという巨大うさぎだった。
「な、なるほどね。蹴りウサギって名前の割に、普通のうさぎじゃんとは思ってたんですよ。さっきのはまだ子供だったってことですね」
成体の蹴りうさぎは、子供を狙われて明らかに怒っていた。
「ブアアアアアアアア!」
「大変失礼しましたああああああああああ!」
勝てない事を魂で察したラットは一目散に逃げだした。
・・・・・・・・
「トホホ......成果ゼロだよ」
命からがら蹴りウサギから逃げ切ったラットがなんとか街に戻ってきた時には、すでに夜も更けていた。
久しぶりに全力疾走したので、ラットの体はボロボロだった。足がなんかめっちゃ痛む。
とぼとぼ歩いているラットの腹が悲しそうに鳴る。
「あー腹減った。ナゴヤはどうなったのかな」
結局、ナゴヤとはギルドで職質されているのを最後にはぐれてしまった。
俺、このまま、無一文で異世界に放り出されてそのまま行き倒れて死ぬのかな......。
ラットは疲労と不安から、目頭が熱くなってきてしまった。
「うぅ......ぐすっ......」
「ちょっと、そこのお兄さん」
そのとき、横から声をかけられる。
「はい......?」
見ると、露店の男がこっちを見ていた。俺と目が合うと、男はそのまま話しかけてくる。
「お兄さん、見たところ冒険者だね。それも、始めたての。その様子だと、今日はダメだった?」
「は、はぁ......」
なんだこいつ。妙にニコニコしやがって、こっちは疲れてるんだが。
「これ、体力回復のポーション。持ってって」
適当に切り上げてギルドに行こうと思っていると、男が赤っぽい液体の入った小瓶を渡してきた。
「え?で、でも、お金......」
「いいのいいの!初心者さん特別サービスだよ!ウチみたいな道具屋は、あんたら冒険者がいないとやってけないからね!これも将来への投資ってわけ!」
「え......あ......じゃあ、ありがとうございます......」
ラットは渡されたポーションを飲み干す。すると、体に力が戻ってきて、更に足の痛みが引いていく。
「す、すごい!本当に回復した!」
「今後ともご贔屓に頼むよ!じゃ、頑張ってね!」
「ありがとう!道具屋さん!」
ラットは、この街に来て初めて人の温かみに触れ、足取り軽くギルドへと戻った。
・・・・・・・・
「ご利用ありがとうございました」
ギルド受付で借りていた装備を返す。
ギルド内を見回すが、ナゴヤの姿はなかった。
「ナゴヤ、どこ行ったんだよ......」
行く当てもないラットは、とりあえずギルドの食堂のはじっこの席に座り込んだ。
夜の食堂は昼とは打って変わって活気づいていた。帰って来た冒険者達が大勢飲んでいて、食堂と言うよりも酒場と言った方が正しい感じだった。
「すみませーん!」
「はいただいまー!」
「注文いいですかー!」
「はいー!」
ラットは、なんとなく手持ち無沙汰で店内を眺めながら今の状況を考えていた。
これからどうしよう。なんとなくギルドで待ってるけど、ナゴヤもギルドに帰って来るのかな。もしナゴヤと合流出来なかったら、ていうか、ナゴヤも成果ゼロだったら、俺達行き倒れるのかな。
......ていうか、ナゴヤ遅いな。もしかして、ナゴヤは俺を見捨てたのかも。そしたら、俺は勝手の分からない異世界でチートも無しに一人で行き倒れになるってことかよ。
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
俺が一人憂いていると、背後から店員に声をかけられる。
マズイ!無一文でここに座っていることがバレたら、店から放り出される!
「いや、あのー、ちょっと仲間を待ってるっていうか、そいつが来たら注文するっていうか......」
恐る恐る言いながら振り向くと、店員はナゴヤだった。
「あれ?ナゴヤ?なんで?」
「いや、なんか人手不足みたいでね。あの後、神を自称したことの誤解を解いて、しご......依頼を探してるって言ったら、なんやかんやでここで働くことになったんだ」
「そ、そうなんだ」
「ちょっと待っててねラット君。終わったらまかないを出してくれるみたいだから、一緒に食べよう」
「ナ、ナゴヤ~!お前、マジで神!」
安心から感極まったラットは泣きべそをかきながら言う。
「ちょ、ちょっとラット君!私は神じゃないって!誤解を解くの大変だったんだから!」
またもやギルドで神と呼ばれて焦るナゴヤ。
「いやお前はまじで神だよ!ガチで神!ほんとありがとう!」
焦るナゴヤをよそに、ラットはべそをかきながらナゴヤに感謝し続けた。