番外編④(中編)魔王によるパチンコ攻略法『同胞よ、時の波を征け』
ピィーキュルルルルルルル──
銀玉がチェッカーに入るや否や、筐体手前のレバーが作動する。赤い点滅と共に、射幸心を刺激する予告音が脳を掻き鳴らした。
「先バレ、いいよね……」
「いい……」
しかし残念ながらこれで4回目、当たりなし。現実は非情である。
今回の艦船擬人化──もとい、ア◯レンは以前の台とシステムをガラッと変更して時短突破型の台となっている。1/199のライト帯で、当たれば必ず100回の時短をもらえる。そこでもう一度1/199を射止めれば晴れて確変…………要は2回引けばいい。
肝心なのは引ければ、だし……そもそも左で苦戦中だ。
「エンゲェージッ!」
「しとらんがな」
脳に効く音だけでは信頼性が足りない。
金色の演出なりなんなりが来なければ肩透かしだ。
「おいおーい、もう500回転だぞ」
「ライト系ではなかなかキツいのぅ」
同調こそしているが、魔王のやつ大分余裕そう。……あ、外れた。
「じゃが、我の究極魔法的にはいい感じじゃ」
「3万突っ込んで魔法使わないってどうよ」
「《《波》》があるんじゃよ、《《波》》が」
「まさかそれ、某先生の理論じゃないよな……?」
「何を言う⁉︎ 今回の魔法はIQ100万を超越する我とっておきの……」
もうそのセリフだけで『チャンス?』並みの信頼度なんだが。
「まぁ見ておれ兄弟子、既に魔法は発動しておる」
「今日はお約束なしなのね」
「兄弟子のも魔法かけとるぞぃ」
「勝手にかけるなよ……」
「うれしいくせに〜」
左打ち500回転超えてそれを言われても嬉しくない。ライト台で2倍ハマりを過ぎると、1/319打ってたほうが良かったのでは? と《《たられば》》でモヤモヤするのだ。
未だ正体のわからない魔法をほんの少し気にしつつ、先バレを待つこと数十分。回転数はお互い554回。
「次じゃな」
「は?」
保留のない状態からひとつ、銀玉が門を潜った。
ピィーキュルルルルルルル──
「お、先バレ〜」
当たる時ってのは開幕から騒がしいものだが、その雰囲気はない。しかし魔王は早々にハンドルから手を離した。
「もう貯めんで良いぞ、当たるから」
「んなわけ……」
「勝負は決しておる。波は今、ここに到来したのじゃ!」
激 熱
他所見をした俺をぶん殴るように、画面には渇望している2文字。そして、
エンゲージ!
「エンゲェージッ!」
白い髪の少女が登場し、リーチは最高潮。当否ボタンも激アツ仕様に変わり……大当たりである。
「前座は終わりじゃ! 左の渋釘とは別れの時、究極魔法はここに発動せり! ■■■■■■■■■■■■■■■!」
「お? お? おぉ?」
天井は暗く、島には闇が漂う。シルバの時のような星空はない。
「我……制約に基づきこの世の理を変える者。幾多の戦を経て栄光を手にする者。敗北の先に勝利を見る者!」
魔王の詠唱と共に、闇が深まる。
「時の波はいま我らの下に! 同胞達よ、手にした剣が連なる時、その狭間にて可能性の先を行け!」
闇は店内の同胞たちを包み込む。それはもちろん俺もぉっー⁉︎
「我が秘術は此処に在り!──『同胞よ、時の波を征け』!」
やがてその闇は波となり押し寄せる。重さも勢いもないそれは、ただ視界を遮る。
「くそ、ハンドルは離さねぇぞッ!」
「そうじゃ! 波は乗るモノ、振り落とされるでないぞ!」
「魔力の波はちがうとおもいまーすっ⁉︎」
時短は既に始まっている。
8、9、10、そして──
11回転目で現れたのは、またもや白い髪の少女。金、金、そして虹色、当否ボタンっ!
「もらったぁっ!」
111と、数字は並び台上部のプロペラ機が忙しなく回る。
「ほぅ、11回転か……やるのぉ」
「究極魔法っつうからシルバみてぇなクソ条件あるかと心配したぜぇ」
「いや、それはもう超えたから無問題じゃ。というか続いておる」
「は? ……あ」
555回転……そして11回転……波……
胡乱ではあるが、パチンカスなら誰もが一度は通るであろう『波理論』。ようやく始まる確変を前に、周りの台もゾロ目で初当たりを引いていくのが見える。
「気をつけるのじゃぞ刹那ぁ、振り落とされればまた波に乗るまで果てしなき旅じゃからな!」
「え、おい! まさかこの魔法ッ⁉︎」
「人生山あり谷あり、そして波ありじゃ〜!」
気づけば魔王も時短を33回転目で突破していた。
闇は晴れ、各々が波を突き進む。どいつもこいつも当たり回転数はゾロ目、ゾロ目、ゾロ目……
いや、ゾロ目の回転数が熱いってのは考えたことあるけどさぁっ⁉︎
◇ ◇ ◇
参考機種:
P アズールレーン THE ANIMATION 異次元トリガー
前作とガラリと変わってますが、変わらぬ先バレ音が良い。
みんなも覚醒、しよう!




