Round27 解呪の時、魔人ちゃん泣いちゃう。
勝った。
魔人との3戦、俺の勝ちだ!
俺の勝ちなんだから、さっさと呪いを解いて……
「うわぁーん魔王様連れて帰れないよぉー!」
「え、は? あ?」
突如膝から崩れた紫髪の魔人。
直前までの魔族ムーブはどこへやら、ぐしゃぐしゃの顔で泣き喚いた。
「ふぅ、やっと化けの皮が剥がれたぞぃ」
「今日の配信はここまで、お疲れ様でした〜♪」
コメントさせる間もなく、急いで配信を終了させると魔王が部下へ歩み寄った。
「だから言ったじゃろう? 兄弟子は強いからやめとけーって」
「だって! だって魔王様! 勇者たちと戦ってからずーっとお城に戻らなくて寂しかったんですよ〜!」
「なんかガキっぽくね……?」
気のせいか、張り詰めた雰囲気が解けると子供っぽく見えるのだが。なぜ……?
「そりゃあまだこやつはじゅうご――――」
「わー! 25だよな、25!」
「そ……そうじゃったそうじゃった! 異世界年齢で25じゃった!」
配信こそ切っていたが、なんだか誰かに見られている気がしたので異世界年齢として誤魔化しておこう。パチンコ・パチスロは18歳以上が出来る楽しい遊技だ。
「うぇ~~~ん」
「……………………」
信頼していた上司というか……尊敬していた存在が突如消えたら寂しいもんなのかねぇ? 企業戦士の雑兵としてはよくわからん。
勘違いで呪いをかけられた身としてはたまったものではないんだが……勇者の時と異なり、年相応に表情の崩れた相手を見ると敗北を煽るのも忍びない。
「勝ち負けはいいからよぉ、魔王は1回帰れよ」
「ぬおうぉ⁉ 兄弟子それはあんまりではないか!」
「そもそも寿司屋でこいつ回収した時、こっちに来た理由聞いたんだろ? 帰ってやれよ、いい部下じゃねぇか」
「う、うむぅ……」
渋っていたものの、さすが王様というか決断は早かった。
「しゃーない……んじゃしばし帰るかのぅ」
「まおうしゃまぁ〜」
「ったく、パチンコにハマるのもほどほどにしとけよな」
「兄弟子に言われてもなぁ」
締まらない……だが、これはこれでいつも通りだからいいけどな。
「今回も勇者と灰髪の魔女は魔人転移幇助の罪がありますし、我々もついでに帰ります」
「お土産もいっぱいもらっちゃったしね!」
「わたしも一旦帰りますぅ」
金色の光で異世界への扉が作り出され、その先には一城。おそらくは魔女たちのいた王国だろう……なんだか女性が多く待ち受けてる気がするが……勇者の謝罪行脚はまだまだ続きそうだな。
「じゃあの!」
「おいおいおいおい! 帰る前にこの身体戻してくれよ!」
「あ、忘れてました……」
泣くのはいいけど忘れんなよ……
「ご迷惑おかけしました、それっ!」
「しばしの別れじゃ!」
異世界勢との別れと同時に、魔人から放たれた黒い魔力が俺を包む。
丸みのあった身体は若干筋肉質のそれに。肩こりの原因だった胸の双丘はさっぱりと消え去り男の姿に戻れた。
脱、呪い……訳のわからんことに巻き込まれたが、これで俺は自由だぁっー!
「戻ったーッ!」
同時に、持っていた杖にヒビが入っていき、粉々に砕けて消滅した。
「こ、壊れた……」
「3回使いましたからね、この杖の役目は終わりです」
現実離れした期間だった。
女体《TS》化するわ、魔法の修行はするわ、魔法は使えるようになるわ……巻き込まれに巻き込まれて疲れちまった。
「さて、視聴者への記憶改ざんも必要ですし……私は動画編集があるので帰ります。今回は打ち上げなしですね」
「……お前帰らないの?」
「魔王が帰れば解決するお話なので」
「原因の一端なの忘れましたか師匠……?」
「お疲れさまでした」
「うぉい!」
サラッと魔女と解散。
相変わらずマイペースな奴だ。こっちは散々な目に遭っているというのに……とはいえ、呪いを解く協力はしてくれたんだ、許してやる――――
「ぶぇっくしょん!」
やや肌寒い気温。ひとり残された墨乃スミレ改め、俺。その姿を店の出入口から客がこちらを一瞥しては消えていく。
「さむ」
そう……どう見ても、野郎のメイド服は異様なのだった……




