Round19 銀髪の魔女による禁忌のパチンコ魔法『反転せよ、幽世の理』
「ラー◯ム」
確変かどうか、50カウント以内にわかる1発告知を難なく通して、聖女は『炎上バトル』へ突入した。
内容はいわゆる転落タイプ。
大当たり確率1/2を先に引くか、転落確率1/5.6を引いてしまうかの競走である。対して俺たちはまだ通常時、こんなもん勝負の土俵にすらいない。
だというのに、魔女は杖を構えている。『当てる魔法』でもやる気だろうか?
「本当は私の美学に反することなど好みではありませんが」
「…………何するおつもりで?」
「研究途中の魔法を使うだけです。これも聖女を止めるための苦肉の策」
そんな中途半端なものを出すんじゃない。ツッコむ間も無く、魔女の詠唱は始まる。
「西は現世、東は幽世。神が祈りで理を翻すならば、汝、幽世の理を反転させよ────!」
「後光に併せて余計にまぶすぃーっ⁉︎」
聖女の光に対抗して、魔女の杖先から銀色の光が放たれる。
「────『反転せよ、幽世の理』!」
「それ双子座のやつぅ──!」
◯まぶしっ
◯慣れねぇー!
◯ブラバしろ!
◯退避ィッ
いつにもまして眩い閃光が魔女と聖女を、そして台を包み込んだ。瞼越しに光が収まったことを感じて目を開ける。
「うぇ、チカチカする」
「まだまだ修行が足りませんね」
「やかまし…………ん?」
凛とした女の声ではなく、低く落ち着いた男の 声がした。気のせいだろうか……魔女のいた隣から聞こえるんですけど。
「魔法は成功、私が時間を稼ぐ間に当ててください」
「…………誰」
慇懃無礼な態度はそのままに、銀髪の男が魔法使いのローブととんがり帽子を着てパチンコを打っている。まさしく『パチンカスの魔法使い』……いや『魔法使いのパチンカス』か…………?
例えるならそう……思い出の中でじっとしてほしい容姿。
なんと女体化ならぬ男体化。嬉しい視聴者がいるのか疑問だ。さてコメント欄は……
◯シルバ様!
◯かっこいい〜
◯イケメンすぎだろ……!
……どーしてこう、もっと根本的なツッコミがないのか、これが分からない。
待てよ……魔女がこれってことは聖女は…………
「ふふ、面白い魔法ですね」
これまたど渋い低音。聖女に至っては髪型すら変わって坊主頭……とはちょっと違うが似たような頭に独特なカソックを身に纏っている。
たとえるならそう……時を加速させそうな見た目。
◯俺ら一巡すんの?
◯どこから呼んだんだよwww
◯元と似てねぇー!
じゃあ俺も男に、なんてことはなく。しっかり墨乃スミレであった。なんでだよ。
内心のツッコミの間に、聖女……つーか聖人? 神父? えぇいめんどくさい、聖女の台はリーチし発展した。
右打ち中はいくつかモードがある中で、今回のデフォルト……棒に乗って飛んでいるキャラのモードは2回バトルを行い、どちらかで敵キャラを倒せば当たりだ。
まぁ、実質1回転を2回やってるように見せてるだけなのだが。
どう考えても寒い期待度2と2.5のキャラが連続して登場した時点で察してしまう。転落してんなあれ。聖女はなんも気にせず祈ってるけど。
「当たることはないでしょう。今回はなんと言っても禁忌の《《妨害魔法》》なのですから」
「お前、まさか…………」
女から男へ、聖女の祈りをしても転落した今のリーチ。そして禁忌の魔法、『反転せよ、幽世の理』という反転の言葉……導き出される結論は────
「祈りで当てられるなら転落を当ててもらうだけのこと。大当たりと転落、2つの確率は反転しています」
「お前ェ……人の心とかないのか」
「このまま暴走されても私が困るので」
イケメンの兄ちゃん顔が様になってるから余計に腹立つなこいつ…………
ややっこしいなぁ……えーと、つまり大当たり確率1/2.0が1/5.3に。1/5.3の転落確率が1/2.0に入れ替わってるってか。
◯クソ魔法で草
◯ド畜生やんけ
◯人の心とかないんか?
「失敗作の魔法かと思いましたが、予想外に活躍できそうでなにより」
「手段を選ばなくなってんな…………お!」
碌でもない異世界魔法を脇目に、俺の台に反撃の点滅保留が湧き出る。そうそう、先読みはこれだけで熱くなれるから楽しいんだ。だがしかし、
「なぁ、その魔法って俺の台も範囲内なの?」
「当然です。そうでなければフェアじゃないでしょう?」
「今お前が1番使っちゃいけない言葉だろ……ッ!」
◇ ◇ ◇
◯銀髪の魔女による禁忌のパチンコ魔法
『反転せよ、幽世の理』
転落タイプの大当たり、転落確率を入れ替える禁忌の妨害魔法。ついでに性別も入れ替わる。元は研究中にボツとしていたが、聖女を止めるべく試した魔法。
妨害、ダメ絶対。




