休憩 異世界教団パチ化計画
外食の焼肉と家の焼肉は別物……なんて、誰かが言った気がする。炭火で焼いてないからとか、ホットプレートだからとか色々理由はあるが、何だったか…………
目の前の鉄板で焼かれる肉の焼ける音が脳を刺激する。例えるならVフラッシュの電子音くらい。
そして卓を囲むは俺と魔女ともうひとり。
「さぁ祈りましょう、すべての食材に」
「…………なんで普通にいるの?」
「祈りには魔力が伴います。長時間の祈りとはすなわち、魔法展開と同義」
「要するに?」
「空腹です」
「まぁまぁ、聖女として振る舞ったとしても元は彼女のままなのですから」
目の前ではこんがり焼かれた肉を魔女が聖女の皿へ載せていく。今日の奉行は魔女らしい。
「それに、この肉はすべて聖女の奢りですよ」
「それはありがたいんだけどさぁ、その後光調整できねぇの?」
「わたくしから溢れる魔力のようなものですので……」
どっかにボタンはないものか……眩しくて仕方ない。
それはともかく普段食う肉より、幾分美味い気がする。勝負こそ負けてしまったが、奢りで肉が食えるのであれば実質勝ちみたいなもんだ。
「わはひょうはんひひふほーは…………」
「食ってから話せよ……」
「…………我が教団に必要なモノがわかりました。2人には感謝しています」
「教団?」
「聖女が務める教会組織です」
それ以上聞くまい。碌なことにならない。
スロットの実機を運ぶ教会組織など聞いたことがない。
「民を救うべく実践────コホン、邁進していましたがひとつの結論に行き着きました」
「……これ聞かなきゃダメ?」
「聞かないと彼女に全部食べられますよ」
「じゃあ聞く」
肉を喰らい、酒を飲み、『聖職者とは』と疑問を抱かずにはいられない間に、聖女は続ける。
「信ずる対象が女神様だけでは信仰心には限りがあります。だからパチンコとスロットなのです」
「接続詞が役に立ってねぇぞ」
脂身の多い肉を聖女の陣地へ誘導しつつ、高い肉を囲もうとするも魔女に阻まれ奪われる。なんと強かな。
「わたくしの言葉を信じて動いても、いずれわたくしがいなくなった時、民は迷うでしょう。神の言葉を受け取ることができる聖女も、そう都合良く現れるわけではありません」
「現聖女がパチ狂いの時点でどうよ?」
「それは置いておきましょう」
置くな! 大事なところだろ。
「そこで神の啓示がありました。圧倒的信頼度と共に神託はわたくしに! それはみなパチを神とすれば救われるということ」
「俺か? 俺の理解力が足らないのか?」
「五分五分でしょうか」
んなわけあるかっ! お前も分かってねぇだろ。いや、こんな話理解したくもないけど!
「ということで刹那さん、教団へ入ってください」
「うぃ〜肉うまし…………あ?」
「やはり信仰を広めるなら詳しい方がいたほうが心強いですし」
「ちょっと待て! なぜそうなる」
「そうです。刹那は我が弟子です」
「あぁそれなら大丈夫。シルバちゃんも我が教団へ入ってください」
「はい?」
「国から言われていたのです。銀髪の魔女も教団へ入れば少しは大人しくなるだろうと。みんな仲良く神を信じましょう、祈りましょう」
曇りなき眼で鉄板の上の肉を全て奪い去り、聖女は喰らう。
「わたくしの教団パチ化計画は誰にも止められません。ふふ、ふふふ…………ふふふふふふ!」
瞳孔開きっぱなしの金色の目が輝きつつ、肉を焼く。暴走した聖女はもう止まらない、止められない。
ついでに焼肉奉行の権利も聖女に渡ってしまった。もう俺たちの肉もない。
「これもお前の想定内か?」
「薬が効きすぎてしまいましたね。異世界パチ教団、入信しては?」
「断固拒否!」
「さすが我が弟子。いいでしょう、私も信ずるは私のみ。過ぎた信仰には魔法で対抗するのみです」
「この流れ、もしかして…………」
「えぇ、配信です」
「えぇ…………」
負ければパチ教団への入信のパチバトル!
配信を待て!!




