休憩 汝、熱狂聖女を崇めよ
「うっぷ…………」
「まったく、妙な術を使うからです」
パチ屋店外にベンチを召喚し(細かいことはツッコまない)、銀髪の魔女は聖女を膝枕で迎えた。
ハズレ目を喰って肥えていた身体が萎む様だけは面白かったぞ。
「そいつも上位チャレンジまであとちょっとだったんだけどなぁ〜」
「出鱈目な魔法や奇跡など使わぬことです」
「………………」
無言の抗議を仕掛けてみたものの、あまり意味はない。真面目にパチンコへ魔法を使っているのだから凄い……いや凄くないが。
「連絡繋がらなかったのはなんでだよ」
「それはまぁ色々と」
「他の面子もかぁ?」
「異世界にスマホの電波が繋がるとでも……?」
何を言っているんですか、とこちらを心配するような眼差しが非っ常ぉにムカつく。平然と連絡してませんでしたっけあなた?
……まぁ、平常運転である。
「単純に魔法研究で忙しかっただけですよ……しかし、数日前に聖女が教会を脱走。異世界への扉をスロットのCZよろしく突破したので、保護してくれと頼まれたわけです」
「脱走て……」
「要するにいつもの発作ですね」
「それはそう」
仮にも聖女と呼ばれる存在の話のはずだが、ホントに目の前の同一人物かと錯覚してしまう。とはいえ、荒台に挑戦する姿勢は我々《パチンカス》の鑑とも言える。聖なる存在にも俗な一面はあるということだ。
「で、連れ帰るの?」
「まさか。それとも、大勝ちはできたのですか?」
「いや全然」
「それでは不可能ですね。今の彼女に必要なのは、大きく勝ったという経験……」
「それパチンコじゃなきゃいけない理由ある?」
「何を言いますか。以前不思議な姿を見たでしょう?」
「あー……あの後光が差してた?」
喋り方もお淑やかと言えば良いのか……ほんわかな雰囲気とは違った聖女を見たことはある。詳しくは番外編⑧あたりだったかな。
「あの後すぐ元に戻ってしまいましたが、聖女として振る舞う以上、昔より覚醒してもらわなくては」
「本当は?」
「いい加減真面目に仕事をさせないと私が責任を取らされます」
「取れ取れ責任をぉっ!」
「いや〜ん、刹那さんこわ〜い♡」
魔女が真顔で猫撫で声を出すもんだから悪寒が走った。表情と台詞が合わないと、こうも不気味なのか……!
「……まぁ、聖女の昂った熱をもっと高めることですね」
「それってパチとスロ打たせろってことだろ」
「有り体に言えば」
俗しかない。清貧やら信仰心とはどこにあるのだろうか…………
「実機で鎮まらないのなら、気の済むまで打たせて心身共に神聖とさせた方が良いでしょう?」
「反動でもっとおかしくなりそ」
「聖女たらんとするならば、試練も必要だということです」
マジで試練なのか…………いやいやいや、聖女としてあるべくパチを打つってんなアホな。
「試練を超えた先、一体何があるのか。専門外ですが興味深いですね」
「まさか神様が当ててくれるなんて言わねぇよな」
「さぁ、どうでしょう?」
奇跡も魔法もありはするが……せめてパチンコ・スロットの形式は守ってほしいもんだ。
「も、もう食べられないですぅ」
「じゃあ昼飯は俺だけでいいか」
「行きますぅ!」
そして飛び起きた聖女に昼飯を集られるのであった。
日はまだ高く昇っただけ。
そう、またしてもダブルヘッダーである。
すべては聖女のために。
いや違うな、普通に勝ちたい。
微妙なプラスなど勝ちではないのだ!




