Round 1 聖女、パチを忘れられず
異世界の某国内、真夜中のとある教会にて。
ある女神を信仰する教会には、魔王討伐に参加したひとりの聖女がいた。単なる僧侶だった彼女は、魔王討伐に参加する前から、奇跡に分類される癒しの魔法を使えるようになり、勇者一行に加わったのである。そして彼女は行く先々で人々を癒し、いつしか聖女と呼ばれるようになった。
という前置きは、正直どうでもいい。
「聖女様がまた逃げたぞ!」
「探せー! まだ近くにいるはずだ!」
教会警備の兵士が叫ぶ。男たちの声に、教会の宿舎には明かりが次々に灯る。ため息を吐くもの、睡眠を邪魔されいらだつもの、教会の中心人物の失踪を心から案じるもの…………様々な思いが錯綜する。
という状況も、正直どうでもいい。
「ハァ、ハァ……ハァ!」
駆ける。石畳をひたすらに駆ける。
銀髪の魔女、シルバが作った異世界への転移門はもう少しだ。自分はこの胸に宿る衝動を抑えきれない。
めくるめく異世界…………ニホンには、自分の求めるものがある。それはこの異世界では得られない体験、なにものにも代えがたい圧倒的快楽。
『聖女は堕ちた』と、誰かが揶揄した。
だが、それでいい。自分は所詮、神に仕えるだけの人間だ。清貧を貫いても、神は応えない。否、可能な限り清い心身でいようと努めた。
けれどそれも、もう限界だ。
「も、もう我慢できない…………ッ」
湧き出る銀の玉、吐き出される銀の貨幣。
赤、金、虹色の文字を見るだけで、心が湧いて聖女としての働きなどできない。先日偶然目にした赤い文字だけで、何か良からぬものが脳に溢れてしまうほどに。
眼前には異世界への転移が出来る石の門。そして兵士が複数人。
きっと剣聖ちゃんの指示だろう。自分はスロット打ちに行ってたくせに!
「聖女様! 明日も公務ですよ!」
「止まってください!」
あぁ許したまえ罪なき兵士たちよ。すべてはわたくしがいけないのです。
もうこの衝動を抑えることはできないのです。
光り輝く転移門へ飛び込む。
だって、打ちたいのだから。
◇ ◇ ◇
「で、パチを打ちたいと?」
「は、はひぃ」
約800文字のプロローグがなんだったのかって話なんだが、要するに橙髪の聖女が現代日本に来たってこと。休みの日とは言え、早朝5時にインターホン連打されるこっちの身にもなってほしい。
あ、どうも主義刹那です。
この前は頭のイカれた令嬢とパチンコバトルをしたわけだが、束の間の平和が訪れたかと思えばこれだ。しかもちょうど銀髪の魔女もここ1週間くらい見ていないタイミング。シフト制で俺の邪魔をしているのかと思いたくなるような間の悪さである。
「だ、だって! みんな遊びに来てるのに、わたくしばかり公務でぇ……」
「聖女ってそんなもんだろ」
知らんけど。
このクソ暑い真夏に修道服みたいなもん着てて熱くないのかねぇ…………
「そ、そう! 休暇。休暇ですぅ! 聖女の休日!」
「ローマの休日に寄せんな」
どっぷりハマった聖女様、久しぶりの登場は狂気度こそ減っているものの、遊ばせずに帰らせたら異世界からまーた文句を言われかねない。
「はぁ…………まぁ今日打ちに行く予定だったし、行きますか」
「ほんとですかぁ! やったぁ!」
「わかったから開店まで寝かせて…………」
そして再び眠りに落ちる。この後、冷蔵庫の中身が半分消えていることも知らずに。
ひとつ言っておこう。
パチンコ・パチスロは適度に楽しむ遊技です。のめり込みには注意しましょう。
◇ ◇ ◇
新章 神よ、聖女を救いたまえ。
今回は本当に短編です(緑保留くらい)。
あと他と並行しているので本当にゆっくりです(紫保留くらい)。何卒。




