Round 30 令嬢フィ~バァ~
「ふ、フン! そのような偶然に頼ったところで、覚醒した私に勝てる要素などありませんわ!」
「どうだろうな」
いよいよ俺もLTに突入。確変回数が100回に増えた今、オカルト打法を駆使した打ち方は無敵だ。自分の好きなタイミングで差し込めるんだからな。
…………ん? 待つまでもなくレバーが震えてしまった。
────フィ~バァ~
大当たり確定の電子音が再び脳内に快楽をお届けしてくれる。至福、これぞ至福である。幸せの絶頂だ。
「おっと、V入賞V入賞っと」
大当たり後のV入賞、忘れるなかれ。
LT発動後はヒロインの誰かが出玉告知をしてくれる。今回は金髪のお姉ちゃん。「150発」と表記された出玉が画面上で何度も分裂して増えていく。結果、2400発。
「おほぉ〜」
1500発規制とはなんだったのかと聞きたくなる。だが、これがいい。企業努力に感謝。6000発出ろ。
「感謝以上に吸われているのでは?」
「貯金してんだよ、いつかおろすから」
◯パチンカスの言い訳で草
〇なお、その時はない模様
〇貯金額だけ増えそう
「今日いくらかおろすんだよッ!」
これで5000発オーバー。行くところまで行かせてもらう!
今度は『待て、しかして希望せよ』変則版。100回から20回ずつ打ち、区切りごとに発動する。
「く、くぅ……当たりませんわ!」
「ここだぁっ!!」
鳴り止んだ歌を縫うように、銀色の玉が弧を描く。そして空になった保留がひとつ溜まる瞬間、レバーはまた、震える。
「ピッピッピピピッピッピピフィーバーァッ!!」
〇セルフVフラボイス⁉︎
◯うるせぇwww
◯なんで当たんだよw
残り72回の出来事である。無敵、この打法に隙はない。100回という長い右打ちを存分に楽しみつつ当てることができるのだッ!
「ま、まだ。まだですわ!」
意地に呼応したのか、令嬢の台にも赤保留が湧き、大当たりを重ねる。そうだ、大事なのは己のヒキ、どこまで舞台を整えようが、当てられなければ意味はない。
「Foo〜! 3300発ゲットぉ〜!」
「せ、1500…………ですわ」
いや、当たればなんでも嬉しいだろ。喜ぶべき時に喜ぶ、これ大事だぞお嬢様。
「ふむ、私もようやく戻ってきました」
「お前ホントにヒキ強いよな……」
勝負の行方を見守りながらも、銀髪の魔女は見事に確変へ復帰した。さりげなーく分母《349》もいかずに当てやがる。
自分の台から目を離して、魔女の台を見ていると、当然の如く半分も経過せずに大当たり。真顔で見ているかと思いきや、魔女の口の端が少し上がっていた。
堪えてたんかい…………!
「他人の当たりを見ていて大丈夫ですか?」
「んぁ? おぉっ、もう30回」
「ぜ、全然当たらなくなってしまいましたわ…………」
錬金術で確変回数の半減している令嬢の台も、残すところ5回となっていた。どうやらチマチマ打つ方法に変えていたらしい。
「快感を経て、私は覚醒したはず……なのになぜ、貴方に勝てませんの⁉︎」
「まだわかんねぇじゃん?」
「え?」
「やるんだよ、今!」
「まさか……貴方の打ち方を…………?」
「お前はまだ、パチンコの世界に足を踏み入れたに過ぎない。異世界の道理を一旦なくして、頭空っぽにして打て!」
◯※パチンコです
◯クソみたいな助言で草
◯引き返すなら今だぞ
なんてコメント欄だ。新規には優しくしろって教わらなかったのか。
「で、でも私……」
「ここで当てると、今までよりずっと…………気持ちいいぞ?」
残り回転数1桁で当てた時の快感と言ったらもう…………普通の当たり方の比ではない。『待て、しかして希望せよ』は、ここぞという時に強いのだ。
迷いの中、令嬢の台のBGMが途切れる。
うるさいはずの店内にも関わらず、令嬢が生唾を飲み込む音がやけによく聞こえた。
「今…………打てばよろしいんですの?」
「突撃ィッ」
号令に従って、令嬢はハンドルを捻る。静まっていたパチンコ台の上部を、一筋の光が駆け抜けていく。神に祈ったのか、令嬢は両手を組んで祈る。
問題ないさ、タイミングはバッチリなんだから。
祈る必要なんて、最初からねぇんだ!
銀の1玉が電チューに飛び込んだ瞬間、
聞きなれた確定を祝福する電子音が、令嬢の台から鳴り響いた。
――――フィーバー!
「お…………お…………ぉ………………!」
「良かったな」
〇おめ!
〇まだ舞える!
〇マジで当たってて草
これで分かっただろう。魔法だの錬金術だのなんてなくなって、先人達の作り出した偉大なる…………
「おっほおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!」
「!?」
どこぞの聖女様を超えた〇ホ声は、鼓膜を大きく振動させる。
頭のてっぺんから光る『何か』を噴出させながら、令嬢はさらに覚醒した。




