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異世界の魔女、現代でパチンカスになる  作者: ムタムッタ
魔女、現る

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Round 16 後編・実践終了。魔女、異世界へ帰還す



 店内の異常な回転数に関しては、意外と大騒ぎにはならなかった。


 あまりに現実離れした回転数にパチンカスの思考は報告するよりも当ててやろうという気概に満ちていたのだ。


 しかし魔法の代償により、回転数に比例して大当たり確率も変わったことで強運で当たる者、反対にハマる者、悲喜こもごもってとこで。

 

 店も異常事態には気づいているものの、今更すべての台を止めるわけにもいかず、事の成り行きを見守っているようである。これに関して同情はない。


「では、私はこの子達とにらめっこをしなければならないので……指揮官として!」

「へいへい……」


 そして先に右打ちへ突入した魔女は純粋にパチンコを楽しんでいた。

 よくもまぁ1500分の1を引けたものだ。

 

 さっきからまぁ2R、2R、2R……小当たりばかりで上皿が減っては当たり、減っては当たり……なんだこのループは。


 先バレ音が待ち遠しい。


 周りを見渡すとそこそこ当たり始めている。なんと強運な奴ら……


「そういや今日、あの金髪姉妹は来てないんだな」

「2人は置いてきました。この聖戦にはついて来れないので」


 妹の方はヒキ弱だし、姉の方はのめり込みやすそうだしな。納得の采配ともいえる。


「まぁ店の外で待機していますけどね」

「鬼かおま──」


 ピィーキュルルルルルルル──!


 ようやく台が応えてくれたらしい。

 赤く光るボタンと脳に直接響く電子(先バレ)音。


「お?」

「どうやら貴方も、確率の壁を超えたようですね」

「いやいやまだまだ……」

「当たりますよ、その保留。魔女のお墨付きです」


 同胞(パチンカス)の言葉なのに、なぜか妙な安心感があった。いや、不安の原因はお前なんだけどな。


 SPリーチの最後、台枠中心に座する丸いボタンを押し込むと、画面いっぱいに虹色が覆い尽くした。


 そして右打ち当否の演出、

 少女が弓を引く画面が赤く燃える。


「いざ!」


 ──突破した。


「ようこそ、右打ちの世界へ」


 ……魔女がちょっとかっこいい風に言っているが忘れちゃいけない。


 あくまで、パチンコの話である。



 ◇ ◇ ◇

 


「あぁー2R引いちゃった……」

「同じく。そろそろ打ち止めですね」


 右打ち直後の遊タイムへのチャンスゾーンを見事に外し、お互いツキが遠ざかった。


 途中休憩を挟みつつ当たったり外れたりを繰り返して結果はそこそこ勝ちとなった。打ち終えて景品交換後、店の外はすでにオレンジ色から闇色へ。


「ひっさびさに打ち倒したなぁ……疲れた」

「この程度で疲労するとは、弟子はまだまだ修行が足りませんね」

「弟子じゃねーよ!」


 なぜに一緒に打っているだけで弟子認定なんだ。


「魔女様おそーい!」

「魔女殿ぉっ! ご苦労様です」


 遠方から聞こえた金髪姉妹の声。

 パチンコ屋に来ていたキッチンカーの傍は2人と写真を撮る人間達で賑わっている様子。


 美人コスプレイヤーと勘違いしているらしい。()()()()良いからな。


「で、結果のほどは⁉︎」

「もちろん勝ちました。私は無敵です」


 魔法使ってるからね!!


「ならば、魔王討伐へ……!」

「誠に残念ですが、帰ってあげましょう」


 「誠に残念」の使い方間違えてんぞ。なんでパチンコの方が大事そうなんだよ。


 人混みを避け、人気(ひとけ)のない屋上駐車場へ。魔女と金髪姉妹が俺に背を向け前に立つ。


「短い間でしたが楽しめました」


 銀髪を揺らしながら、魔女はこちらへ振り返る。夕闇に映える銀色が、どこか眩しくて。


「では我が弟子よ、私は帰ります」

「まぁ、あれだ……健闘を祈るよ」


 あえてツッコミは控える。

 本当に異世界へ帰るのか知らんが。


「ご心配なく。魔王討伐など今日の台でループチャンスを突破するより簡単です」


 微妙に例えが分かりにくいな……

 魔女なりのジョークというやつだろうか。


「また、いずれ」

「へいへい、お疲れさん」

 

 付き合いきれんな。

 と、魔女が杖を取り出し虚空へ一振り。


「我、異なる世界を繋ぐ者なり。開け、我が世界の扉──!」


 何もない空間に、真っ白な光が生まれ徐々に大きくなっていき、ドア型の光となる。その先には見慣れぬ光景。


「さて、魔女の帰還です」

「先生ぇっ、お達者で!」

「打ちすぎて破滅すんじゃないわよ〜!」

「わあっとるわい!」


 締まらない別れの挨拶と共に、3人はあちら側へ跨ぐ。最後までこっちへ手を振るのを見送ると、光は収縮し元の何もない空間に戻った。


「すっげぇ……マジの魔法だ」


 パチンコに使うだけじゃなかったんだな。わざわざ捜索されるだけはある。


 不思議不可思議な魔女とのパチンコはこれでおしまい。晴れてもとのパチンコライフに戻れるのである。


 弟子認定されているが……まぁ、会うこともないだろう。異世界とやらに魔王討伐に帰ったんだ、わざわざここへ戻ることも……ありえないだろ。緑保留の信頼度くらい。



 さらば銀髪の魔女──いや、

 敢えて言おう、さらば師匠。


 

 ……いいこと言った風にしているが、別にセンチメンタルにもならないな。パチンコだし。


 飯食って帰るか。



 後日、魔女の秘術で開けられた釘達は修正された。

 ただ、オカルトを恐れてかちょっとは良い具合になったとかなってないとか。いなくなってもパチンコ屋に影響を与えるとは……



 まったく、とんでもねぇ魔女である。



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