Round 15 トータルでは勝ってる
魔法の発動した後、魔女の台の主人公はどんな攻撃を受けても無敵だった。小宇宙が燃えている。
モエロ、コスモヨ! ペガサススイセイケーン!
「勝利は我にありです」
「えぇ…………あ」
こっちは負けちまった……何が80%継続なのか。辛い。
「ではお先に」
「くぅー!」
ペガサスカクセイダ!
いよいよ魔女はスロットのメダル獲得の大部分であるラッシュに入る。
その前に、そのラッシュを遊ぶゲーム数を手に入れるゾーンへ。
魔女は先にスロットの楽しい部分に入った。10Gの間にG数を上乗せして乗った分×約2枚のメダルが獲得できるのだ!
……なのだが、魔女は回ったリールの前で深呼吸を数回。
「……何してんだ?」
「静かに! ……小宇宙を高めています」
んー、見事な脳の焼かれ具合。座ったまま見事な舞である。
「――いざ!」
淀みないスロット捌きでボタンが連打され、レバーが叩かれる。
10G、10G、10G、10G、10G、10G、10G、10G、10G、10G……
――100G――
「…………」
「………………」
100G(約200枚)は最低保証である。
小宇宙なんて、やっぱりオカルトだね!
◇ ◇ ◇
その後追加で5000円程入れた後、俺も無事ラッシュへ突入。
俺は……120G程度だった。
「うえぇー、最低保証と大して変わんねぇ……」
「ご愁傷様です」
魔女がニヤニヤこちらを見ている。実に楽しそうに。お前……自分が100Gだったの忘れたのか?
「この120Gでミラクル起こしてやんよ」
「勇ましい限りでなによりですね」
もちろん何も起こらなかった。現実は非常である。
魔女と俺、そろいもそろって敗けだ。
「ふぅ、負けた負けた……今回は負けですね」
「そんなんでいいのか、魔女さんよぉ」
「不敗神話などありえません……たまには《《負けてあげないと》》顔認証で負けてしまいますからね」
こいつが言うと冗談なのか本気なのか分からんぞ。未だに謎多き女である。
「賭け事で一方的なのは興醒めではありませんか?」
「そりゃまぁ……」
ホントは連戦連勝したいけどな!
「あー、こっちにいた! お姉ちゃん、魔女様見つけた!」
「よくやったぞ! 魔女様ぁっ!」
うるさい金髪姉妹が現われた。
関わり合いになりたくないのか、他の客は知らぬ存ぜぬ。
「魔女様! 調査など嘘ではありませんか!? 単に遊技に興じているだけなど国の損失! 早く魔王を倒しに行かねば――!」
「功を焦ったところで良い成果は得られませんよ。それに……その魔王に飛ばされてこの世界に来た愚か者が私なのですから」
ちゃんと設定あんのね。
はよ帰れ。
「もう別世界へ飛ばす魔法への対処は完璧ですっ! 勇者様も待ってますよ! はやくやっつけちゃいましょう~!」
テンションの高い金髪の魔女がなぜか俺の肩をバシバシ叩く。
「おーおー、さっさとお勤め果たしてこいよ。こんな所で油……スロット打ってないでさ」
「はぁ……面倒な」
魔王倒すよりパチンコ・パチスロの方が大事なのかよ……これはもう生粋の存在である。
「まぁいいでしょう……来週の勝負に勝てたら帰ります」
あ、普通に帰るんだ。
いや、待て……勝てたら? わざと負ける気か?
「そんなわけないでしょー! 魔女様の魔法はすごいんだから!」
「そうですよ先生! 弟子である貴方が魔女殿を信じなくてどうする!?」
この姉妹は……
「最後の聖戦、貴方も来ますね?」
聖戦って、んな大仰な……ただのパチンコだろうに。
レバーとボタンを叩く動きは止めず、銀髪の魔女は妖しい笑みでこちらを見つめる。吸い込まれそうな蒼い瞳は、なにか思考を歪められそうで……
「はいはい、お供しますよ魔女様」
「ふふふ……約束ですよ? では、もう少し打ち込むとしましょう」
この日は負け。
まぁ……最近トータルでは勝ってるから大丈夫だろ、多分。
多分!




