Round 5 桃髪の剣聖によるスロット攻略法1『換骨奪胎』
「なぁ、その刀やっぱり持って行くの?」
「当然ですっ! これは我が身体の一部のようなものですからっ」
日本じゃその一部が問題なんですが?
エルフ師匠と別れ、昨日と同じパチンコ屋へ到着すると、よどみない動きでスロットコーナーへ進んで行く。午前11時前の現在、既に我々の同志達が果敢に挑んでいる。
「これがスロットたちですか…………」
「多くの人間の脳を焼き切り、そして未だ焼き続ける機械。だがそれでも挑み続けるのはなぜか⁉︎」
「な、なぜですか……?」
「打ってみなければ、わからない!」
しかし打てば最後、剣聖もスロットに取り込まれるであろう。なぜなら……
「お前らの知ってる聖女さまは、そうしてスロットに脳を焼かれてしまったのだッ!」
「なるほど…………!」
7割くらい俺が原因だけどな!
雑談もそこそこに、最新台も導入されていい感じに空いていた狙い台に着席する。
昨日に引き続き『からくり』……の、スマートスロット台である。強力な出玉性能で昨今多くの人間の脳を焼いてしまった罪深き1台。吸い込まれた諭吉栄一は数知れず、しかし当たりが爆裂した時の衝撃はそれ以上とかなんとか…………
最近はスマスロと聞くだけで臆してパチンコに偏っていたが、やはり時代はスマスロ。釘で邪魔されず、引ければ良いという単純シンプルな戦いは嫌いじゃない。何より、
「よーし、今日もがんばるぞー!」
呑気に気合を入れている剣聖を開運グッズ代わりに打てば、きっと勝てる気がする。
◇ ◇ ◇
基本的には小役かゲーム数でCZ(以下、CZ)を当選させ、そのCZで小役かリプレイを2回連続させるとRush突入……とまぁ通常時もやることは多い。まずこれを突破できなければお話にならない。
「んで、まずは昨日と同じようにまず金入れて貸出」
「さっき硬貨のようなものを使ってる人がいましたけど……」
「これはメダル使わないの。昨日もそうだったろ」
最初の46枚が貸し出されると、戦いの準備は整った。
散って行った1万円達のために、俺は……行くよ!
「左の赤いベットってとこを押して、レバーをやさしーく叩いて左からボタンを押す」
「こう、こう…………あ、こうですか」
トントントン、とリズム良く押して1ゲーム。当然何か起きるほど剛運というわけではない。
「あとは当たりが引けるまでひたすら打つのだ!」
「わ、わかりましたっ」
ベット、レバーオン、ボタンを押す……ひたすら繰り返しチャンスを待つ。待つしかない……が、やはりビギナーズラックはあるようで。
「ん? 先生、当たったようです」
「は?」
おいおいまだ100ゲームくらいだろ。
こちらの困惑はともかく、画面には骸骨っぽい存在が映っている。これがCZだ。約10G以内にリプレイもしくはベルを2連続、他レア役を引くことが出来れば成功だ。
「りぷれいっていうのは、青い柄が一直線の状態ですか?」
「だな。あとは黄色い柄が並ぶとか、緑の柄が並ぶとか……とにかく何か揃えばいいんだよ」
まさに引けばいい、ということだ。
正直この時点で危険な匂いがしているんだが…………まぁ剣聖は昨日の勝ち分で余裕あるし大丈夫だろ。
「すぅ…………」
息を整え、剣聖、レバーオン。
ハズレハズレリプレイハズレ、リプレイハズレ、リプレイハズレ、リプレイ…………そしてハズレである。初心者だというのに、もう慣れた手つきだ。
もしかして、剣の才能が関係してる?
…………んなわけないか。
「先生ぇ、こんなの無理ですよぉー!」
「泣き言並べても当たりゃしないぞ」
さすがにビギナーズラックでも一発突破はないか……リプレイ何度も引いてるだけすごいのだが。
「パチンコと違ってある程度の段階をクリアしなければ俺達に勝利はない。それまではひたすらレバーを叩いてボタンを押すのだ!」
「なんと精神力が試される機械ッ! 恐れ入りますっ」
健気だなぁ……
『先生』という敬称(最初はパティンケスだったけど)、そしてこの実直さは前に来ていた金髪の女騎士を彷彿とさせる。
「ほぇ、どうかしましたか?」
「ぁん? あぁ、勇者一行の女騎士に似てるなと」
「……なんですって?」
流れ変わったな。
剣聖ちゃんの声色が低くなり、こちらを威圧する。
「僕があのおっきいだけの女に似てるってどういうことですかっ⁉︎」
「えぇ……」
思わぬところで地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「剣の腕なら僕の方が上なんですよ⁉︎ ちょっと堅くて、体力があって、力持ちで、胸がおっきいからって勇者一行に選ばれてぇ……!」
「お前が選ばれる理由がねぇな」
冒険に胸は関係ないだろ……
「おかげで荒々しい男しかいない騎士団の仕事も任せられて、大変だったんですよっ⁉︎」
「知らんがな」
楽しそうな表情が一変、桃髪の剣聖は目をうるうるさせてスロットを打ち続ける。
「こっちに来た人たち楽しそうに話してるし、みんなずるいんですっ! 僕にだって、休暇があっていいのに!」
「知らんがなパート2」
魔女の余波が思わぬところで響いているようだ。パチンコ打ってただけなのに……
八つ当たりのような身の上話を聞いていると、2人同時にCZへ突入した。
「よしよしよし、投資1万。いけるいける」
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1ゲーム目……強い念が通じたのか、最初から骸骨の様子がおかしい。第1リールを押して見ると、上段にスイカ……
「キタキタキタキタ!」
そして右下がりにスイカの図柄が並び、液晶画面は爆発、『push』ボタンが飛び出て押し込む。
「ッ、シャアッ!!」
「な、なんと一撃で……さすが先生!」
「ふっ、これがお前ら異世界の奴らを倒した実力ってやつよぉ」
っぶねぇ〜……通って良かった。
先輩風吹かせてる手前、ダサいところを見せるわけにはいかない。
俺の引きに感化されたのか、剣聖は気合いを入れるため深呼吸。
「魔法を使わずに運を引き寄せるなんて……よーし、なら僕はっ!」
楽しい楽しいRushの開幕を他所に……隣の少女は流れるような手つきで1ゲーム目にリプレイを引く。
「やった、好機っ!」
そして、赤鞘の刀を手に取った。
「おいおいおいおい、また斬るつもりか」
「ご心配なく。今日ひとつ目の剣技は危険なモノではないので! 言わば『構え』の技──」
そう言いながら、剣聖は昨日と同じく刀をわずかに引き抜き、刀身に自分を映した。
──換(換)骨(骨)奪(奪)胎(胎)
目を閉じ静かに刀を納め、元に戻した。
……今回は台を斬ってないらしい。再び見開いた桃髪の剣聖は、深呼吸。
「魔法を使わずに運を引き寄せるなんて……よーし、なら僕はっ!」
ん?
ほんの少し前と同じ言葉を口にして、剣聖は流れるようにレバーオン。すると画面は騒がしくなり……横一閃、リプレイ図柄が揃い『push』ボタンが現れた。
「なっ⁉︎」
「同じ並びを出さなければならないのなら、僕自身が過去に倣うまで。これが剣聖による模倣剣技、換骨奪胎っ!」
その技は偶然か……似たようなものはこの世界にあった。原理は全く違うが――あえて言おう。
異世界コピー打法だろ。
◇ ◇ ◇
参考機種
パチスロ からくりサーカス
CZがどんな状況かは動画で見てみましょう。なお、当機種はスマホアプリ(※有料)でも配信中!
決めろ、運命の一劇!!
……財布がもたないです。




