Round 10 パチンカスのなく頃に
パチンコ・スロットで岐阜県は白川郷……に良く似た場所がモデルといえば、何を打っているかは言うまでもないだろう。本当にその場所にいるわけではないし、なんなら絶賛パチンコ中……のはずだ。
『あんな燃費の悪い魔法をパチンコに使うわけないでしょう』
我らがパチンカスの魔女のその言葉で、これ以上リアルパチンコ体験はないだろう……そう高を括ったのだが。
気づけば魔女の心想界域に引きずりこまれてここにいた。何でここにいるかって? 俺が知りたい。
真っ先に魔王が犠牲になり、とにかく逃げている。
「はぁ、はぁっ、はぁ…………ま、撒いたのか……?」
「た、多分……」
虫の音も聞こえない山中の学校。街灯もなく、日の暮れた校舎周辺の土をひたすらに蹴っては走り、木に隠れる。
「2人とも、どこかな〜?」
いつものクールな銀髪の魔女とは正反対な猫撫で声が小さく響く。小さな木にエルフ師匠と俺では身体を隠すのに不十分。
「おぃ、お前師匠だろ! ここは孫弟子を守るために立ち向かえよ」
「無茶言わないでよぉ〜。今のあの子、その辺のドラゴンなら瞬殺できる状態だよぉっ⁉︎ 孫弟子こそ囮になってよぉ!」
「言ってろ青保留!」
仲良く口喧嘩をしていると、木の影からぬるっと銀髪。
「みぃつけたぁッ!」
「アッー!」「ぎゃぁー⁉︎」
全てはエルフ師匠が悪いのである。
◇ ◇ ◇
陽光差し込む午前7時。
自宅に女性が3人、内2人はあられもない姿で寝ていたら、ちょっと心躍るものだろう。普通は。
「うへへぇ、まだ飲めるよぉ」
「こ、これ以上仕事は嫌じゃ……!」
全ッ然踊らない。
何なら酒臭さが残ってて酔いそうだ。これを不幸と言わずに何と言う?
「おや、起きましたか」
「お前も帰ってなかったんだっけか……?」
コンロの前で鍋を煮る様はまさしく魔女……と思いきや、ローブを脱いだラフな格好のシルバがそこにいた。
「……なにか?」
「ローブ以外に服着てたんだなと」
「馬鹿なことを言っていないで師匠を起こしてください」
一瞬誰かと思ったぞ……!
考えてみれば、魔女のローブ姿以外をみるのは初めてかもしれない……だからなんだという話ではあるが。
どうやら人数分朝食を用意してくれたようで、小さい卓に和食が並ぶ。
「さすがに納豆は無理ですが」
「んぁ〜味噌汁が染みるぞぃ」
現代人より現代人してないか、この異世界人たちは。最近の朝なんてパンかじるだけだぞ。
「なんか薄くない〜?」
「…………」
姑よろしく、エルフ師匠の何気ない一言が魔女の動きを止めた。
「師匠ももうお歳ですからね、塩分調整をしたまでです」
「これでもエルフの中じゃ若年層なんですけどぉ⁉︎ 卵焼きも甘い奴だしぃ」
「糖分補給にはちょうど良いでしょう」
「しょっぱいのがいいのぉっ!」
「血圧が上がりますよ」
まるでガキと母親だなぁ。
これが元の世界でも繰り広げられていたなら、魔女の苦労もわからんでもない。
「ぶーぶー、ちょっと前までは『お師匠様!』って後ろついてきてたくせに〜」
「やはりこやつ感覚がバグっとるのぅ」
「10年以上前のことをちょっとと言わないように」
攻勢変わらず、魔女有利……この師匠、威厳もなにもない。魔女にも子供らしい時代があったという事実は面白いが。
「そこ、考えが透けて見えますよ」
おっと、くわばらくわばら…………
「だいたいみんな尊敬の念が少ないんだよぉ。わえ、これでも偉いんだからねぇ?」
「偉い奴はビビらないと思いまーす」
「あ、あれは〜不意打ちで驚いただけだから……!」
うーん、やはり威厳なし。
というかリング台で魔法かけたのお前じゃねーか。
「では、師匠の尊厳回復のためにも打ちに行きましょうか」
「なぜそこでパチンコ……?」
「尊敬できる師匠のままなら、私の界域下でも見事な実践っぷりを見せてくれますからね」
……魔女のやつ、ちょっとキレてない?
「そ、そうともぉ! 打ち方は大体わかってきたし、そろそろかっこいいとこ見せちゃうよぉ!」
「期待していますよ、師匠」
満面の笑みを浮かべる魔女の視線はこちらへ移る。見たこともない笑顔が逆に怖い。
「現実のひぐらしの声は聞けませんが、パチンコなら聞けますよね、刹那?」
「あ、あぁ…………あ」
「なんじゃ、どした兄弟子」
「いや、ナンデモナイヨ」
わざわざ「ひぐらし」なんて単語出すんだから打つ台はアレしかないわな。ホラー系苦手って今話題にしたはずなんだが。
「ふふ……ふふふ……!」
鬼かこいつ。




