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第3話「は、はぃ……っ///」

 ──成人まで残り3日。


 ソルトは久しぶりに娘から感情の変化を感じられて、それだけで涙してしまった。


 イーサは今日、アリスの部屋を訪れていた。


「すごろく、ですか」

「そ。ルールは分かる?」

「えぇ。幼い頃にやりましたので。ただ、こういうのは相手の感情の変化を楽しむものなのではないでしょうか」

「んー、そうといえばそうかもね」

「なら、私とするのは──」

「けど僕は、”アリスさんとする”ってことの方が楽しいと思うんだよね」


 そう言ってイーサは小さく笑う。


 つくづくイーサは感性がズレているのだと分かる。一体何がそんなにイーサを動かしているのか。


「──……イーサさんはどうしてそんなに私と関わろうとするのですか?」


 アリスはすごろくを淡々としながら、イーサに質問をする。楽しそうな表情を浮かべているイーサとは正反対だ。


「それは……いや、やっぱり君が可哀想だったからだよ。ま、理由なんていいからさ。僕が勝っちゃうよ?」


 イーサは何かを隠すようにアリスの意識をすごろくに戻す。アリスにそれを追求したいという欲望は湧いてこず、何事もなかったかのように再開する。


「──ん、これで僕の勝ち、だね」


 イーサはゴールまでのマスと同じ目を当て、ゲームは終了する。


「負けました」

「悔しい? もう一回する?」

「イーサさんがしたいのであればお付き合いします」

「うーん、ゲームだけじゃ感情は戻らないねー」


 その言葉を聞き、アリスは反射的に聞き返す。


「私に感情を取り戻させたいのですか?」

「もちろん」

「この病にかかって、感情を取り戻した人は前例がないです」

「なら、僕たちが一番最初になればいいだけの話」


 社交的な場以外でこうして話すようになったのはまだ2日目だというのに、アリスは【困惑】という感情を取り戻しつつあった。


「そういえばさ、アリスさんはおしゃれには興味ないの?」

「どうしてですか?」

「前髪。軽く手入れはされてるようだし、そもそもの髪質もいいからダボッとしているようには見えないけど、もう目にかかってるじゃないか」

「まぁ、イーサさんとはいえ、他人ということには変わりないですからね。最低限度の手入れはしますよ。”きれいになりたい”、という願望は既になくしましたが」

「へー。ま、無理強いはしないけど……」


 そう言うとイーサは立ち上がる。今日は帰るの早かったなと思いつつ、アリスも立ち上がる。


 ──と、アリスは昨日と同じように顎を引き寄せられる。アリスの目には世の女性が望む美貌が広がっていた。


 ただ、アリスにはそれにどうこう感情を抱くことにはならなかった、否、できなかった。


 しかしそう思っていると、イーサは空いていたもう片方の手でアリスの前髪を掻き上げる。当然その状態だとイーサとの間に隔たりがなくなり、目が合う。


「──こっちのほうが可愛いと思うんだけどね」


 ──トクン。


 どこまでも優しいその声でイーサはそう言ってくる。


 まだ感情があった幼い頃からアリスと交流のあったイーサ。アリスにとってその頃のイーサはたくさんアリスを助けてくれる『優しい男の子』でしかなかったが、今のイーサは色気に満ちあふれていて、思わずかっこいい、と思ってしまう。


 そこで、アリスはイーサに対してなんてことを、という《《羞恥》》に襲われ、頬を赤らめて目線をずらしてしまった。


「あはは、ちゃんと照れてくれたようだね」


 イーサは顎からゆっくりと頬をなぞり手を離す。


「それじゃ、またね」


 アリスはイーサと目を合わせられずにこの日は別れてしまった。イーサが帰った後、アリスの心臓は今にも破裂しそうなほどなリズムを奏でていた。

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