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第一話 天使 マヤ




どうして生まれてきたのだろう。


どうしてこの世界は存在するのだろう。


どうしてみんな笑えるのだろう。


どうせみんないつか死んじゃうのに。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇


俺、方丈サトルは昔から病に悩まされてきた。

病と言っても体が病原菌に侵されているわけでも、身体の機能に支障をきたしているわけでもない。


俺の病は心の病、名付けるならば死恐怖症、タナトフォビアだ。

簡単にいうと死ぬのが怖いのだ。

俺は幼いころからよく考える性格だったから疑問に思ったのだろう。

好奇心旺盛でなんでも知りたがりだった俺が行き着いた究極の疑問、それは「人は死んだらどうなるのか」だった。


この疑問は有史以来多くの人々の悩みだったに違いない。

ある人々は死んだら天国や地獄に行くと信じ、ある人々は虫や他の動物たちに生まれ変わり次の人生が始まることを信じた、輪廻転生という思想だ。


しかし、現代において神の存在を信じられる人は少ないだろう。

昔は神の怒りだと思われた自然現象も科学によって説明できる。

科学を残酷にも全てを明らかにしていった。


魂を存在するとは考えられない、人間の脳みそが活動を停止したら「俺」という意識も消えてなくなる、そう考えるのが自然だろう。その後に待っているのは「無」だ。


永遠の無、俺が死んだあと俺という存在は二度と再生することはない、何万年、何億年、無限の時間が流れたとしてもそれは変わらない。俺は死ぬことによって俺が消えること、それがなによりも怖かった。


どうせ俺という存在は消えてしまうのに、なんで俺は生まれてしまったのだろう。こんなに悩み苦しむのなら最初から生まれなければよかったじゃないか。

どうしてみんなはそんなに笑顔でいられるんだ、いつか死ぬということ自分が消えるということを理解していないのか。


発作が始まるのはいつも夜だ。学校にいる間や人といる時は大丈夫だ、考える暇がないから。

寝る前に一人になったときの孤独感、そして考える「時間」が与えられた時、死の恐怖が顔をのぞかせる。


始まった。言葉では形容できない虚無感が俺を包む、苦しい、涙が自然と溢れてきて体を震わせる。なんで俺は死なないといけないんだ、こんなに苦しまないといけないんだ、お願いだから誰か答えを教えてくれ、俺を助けてくれ。







「私が助けましょう。」







涙まじりの目を開け、俺は声をしたほうを向いた。白いまばゆい光に目を細める。そして光はだんだん弱くなっていき、人影が見えた。そこに現れたのは、腰まで伸びた美しい白髪、吸い込まれそうな大きく赤い瞳、雪のように白い肌をしている中華風の着物を着た美少女だった。

彼女は俺のベットの前に立って、優しい微笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「あ、あんた誰だよ。」


「私?私の名前はマヤ。あなたの助けを求めている声が聞こえて現世に降り立ったのです。」


「・・・現世?」


「ふむ、なんと言えばいいのでしょう。私は現世で言う『天使』のようなものです。」


言っていることが全く頭に入ってこない。じゃあ彼女はこの世の者じゃないということか。

そうだとすれば彼女の浮世離れした格好とさっきの光にも合点がいく。

こちらが混乱しているのを知ってか彼女は続けた。


「だ・か・ら、サトル様が死ぬのが怖いと言ったのを聞いてここに来たのですよ。死の恐怖から解放されたいのでしょう?」


「そうだ。あんたが助けてくれるのか?」


「ええ。もちろん今すぐに、とは行きませんが。サトル様に手伝っていただきたいことがあるのです。」


「俺に何を手伝ってほしいんだ?」


「単刀直入に言います。サトル、あなたには超能力サイキックという力があります。これを現世において先天的に有している御方は僅かしかおりません。この能力を使って煩悩の悪魔を打ち倒してほしいのです。」


──なんだか頭が痛くなってきた。超能力?煩悩の悪魔?ばかばかしい。そんなものが存在してたまるか。だいたい俺にそんな能力があればこんな平凡な人生歩んでないっての。



「超能力も悪魔も存在しますよ。目の前にいる天使がそう言っているのですから信じてほしいですね。私が登場したときのあの神々しい光を忘れましたか!」

プンスカと怒ったような口調だが彼女は笑みを絶やさない。


「なんで俺の考えていることが・・・。」


「天使だから心ぐらいよめて当然でしょう。話を続けます。あなたには気を操る才能があります。気はすべての人間に流れていますが、ほとんどの人はそれを知覚することができません。しかし。」

マーヤが俺の胸のあたりを指さす。


「サトル、あなたは違います。常人とは桁外れの気のエネルギー量があり、さらにあなたはそれを意識的に操ることができます。サトル様にはその超能力を使って、煩悩の悪魔を打ち倒していただく。そして私は代わりに死の恐怖を取り除く術を授けましょう。」


「本当に死を克服することができるのか。」


「ええ、もちろん。」


「わかった。その話に乗らせてくれ。」



超能力だの、悪魔だの、気だの信じられない話だが、もうこの際どうだっていい。俺の長年の悩みが解決するのなら何だってしてやる。



「交渉成立、ですね。ですがもう今日は夜が更けています。詳しいことは明日話しましょう。」


「わかった。俺もいろいろ聞きたいところだけど、明日は学校もあるしな。」

 我ながらこの状況をすんなり受け入れている自分に驚く。後は彼女が出て行った後にいろいろ考えよう。


 ───しばし、沈黙の時が流れる。

「ん?俺は寝るからじゃあ。」


「ええ。わかりました。」

 彼女が動く様子はない。


「・・・寝るからどっか行ってほしいんだけど。」


「それは無理な相談です。契約が成立しているので、私とサトル様は一心同体。もう離れることはできませんわ。」



心なしか嬉しそうなマーヤを見てため息をつく。彼女がそういうならルールとしてそうなっているのだろう。今は彼女のいうことを受け入れるしかない。

しかし、俺も16歳の男子高校生、こんな絶世の美人が近くにいて落ち着いていられようもない。マヤに背を向け、悶々とした気持ちをなんとか抑えつけようと努力する。意識するな。意識するな。



「おや、サトル。なにやら股間のほうに気がどんどん集まっていきますが・・・」


「そ、そんなことはない!!あ、あんまりこっちを見ないでくれ。」



訝し気なマヤのまなざしに、シッシッと手を振ってこちらを見ないよう促す。

気が集まってるって、そういうことか!?そんなことまで分かるのかよ!

 呼吸に意識を向けて、リラックスする。4秒吸って8秒吐く。4秒吸って8秒吐く。これを繰り返す。よし下の方は落ち着いた。

でも信じられないような話がたくさんあったな。悪魔ってどんなんだろうか、俺の気で倒せるのか。だめだ、どんどん疑問や考えが浮かんでくる。



・・・果たして今日俺は寝られるのだろうか。


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