婚約破棄イベントは起きるだろうと思ってた
書いてたらおなかへった
パーティ会場。着飾ったドレスと紳士服が行き交い、そのどれもが美しい女だったり男だったりする空間。
現代日本ではまずあり得ない空間なため、私は相変わらずくらつきそうである。
現代日本では、と言う言葉からお察しの通り私は悪役令嬢ポジションである。最近流行りの転生である。
名前はルーシェ・モンブラン。美味しそうと令嬢っぽいを組み合わせたような名前。よくありそう。
パーティ会場という言葉からさらに察した人もいるかもしれないが、今日は俗に言う断罪イベントの日だ。
いやまあ、正直どうにかなるだろう、と思う。
なぜなら何もしていないからだ。原作と言えそうなもので語られた所業は一切していない。ついでに言うとなんなら変な噂も聞いていない。
恐らく何かあってもどうにかなるのが定石だと思っていた。
つまり、油断していたのだ。
「ルーシェ!お前に聞いてもらうことがある!」
その時私に指を差し叫んだのは金髪のよくある美しい男、ついでに赤い目で人気を掻っ攫いそうなこの国の第一王子――クリス・ザッハトルテ。
苗字とかの類が大体お菓子なのはその男の隣に佇む赤毛に長髪の少女――コットン・マドレーヌもそうだった。当時から思ってたけど考えた人の趣味なのだろうか。
まあ婚約破棄であろうことはわかっている。この後おおよそどうにかなってどうにかならなくても頑張って生きていこう、そう思いクリスの方を見る。
「なんでしょう……?」
「ああ。お前には今日限りで――」
「私と魔法少女になってもらう!」
「……?」
??
……???????
地の文に何を書けばいいかわからなくなってしまった。ちょっと斜め上の方向からなんとかなられると流石に困る。
いや、正直言うとこの婚約破棄の文章からして変わるのはあり得るかもしれないと思っていた。
そもそもそれがこれくらいにはファンシーである可能性も。
だが、流石にこれは予想できていなかったかもしれない。
「私とって言いまして……?」
「そうだ。この私、クリスと共に魔法少女になってもらう」
「性自認がどうとかの話ではないですわよね」
「そういう細かい話をするのであれば私は男性としての目線で全ての女性を美しくまた性的だと思う」
「でもコットン嬢とやけに親しげにはしてらっしゃったような」
困惑を隠しつつとりあえずある程度砕けても許される問いを敬語でぶつけてみる。
そう。実際、婚約破棄イベントが起きてもおかしくないくらいにはコットン嬢と親しげにしている。それは事実なのだ。頬をもみくちゃにする仕草は普通に距離が近いのではないか。
しかしここでコットン嬢が口を開く。
「ルーシェ様。隠していてごめんなさい。……私、実は人間を辞めてるんです」
「またとんでもないこと言い出しましたわね」
「ルーシェ様が私と同じく前世の記憶を持っているのは確か。なら魔法少女、ひいては女児向けアニメや女児向けでないアニメの知識もあるはず」
「はあ」
「――私がマスコットである、言ったら伝わりますか?」
すると、コットン嬢の体は唐突に霧に包まれる。そしてそれらが晴れた時そこにいたのは――淡く赤い、もふもふの生き物であった。
「つまり、クリスは……」
「ただもふもふのかわいい生き物にメロメロだっただけです」
「そちらの世界にいる猫という生き物が気になる」
「……ところで舞踏会の最中では?」
「ああ、実は……」
すると舞踏会にいたはずの美しい顔立ちの人間達が、気持ちの悪いゴブリンのようになってるのが目に入る。
「ひひっ、お前ら魔法少女だったのか!ここで倒せばボスに褒められる!」
「キモすぎる」
「ということだ。変身呪文を唱えて一緒に戦うぞ!コットン、彼女に呪文を教えてくれ」
「ええ。ルーシェ様、よく聞いてください」
そうして赤いもふもふは私の耳元で何かを囁いた。
……。
「いやナットウネバネバオコメゴハンはあんまりに日本人でしょうよ――」
瞬間、体が光に包まれ、今のは唱えたことになったのだなと思った。
そしてこの後クリスが「タマゴマゼマゼオコメゴハン!」と叫んでいたので、とりあえず色々諦めた。
怪物は倒した。
投稿したしコンビニいきます