10.バク
四月八日 雨
二年生の音楽で、ピアニカをやりました。
わたしとなっちゃんはたくさんれんしゅうしました。
四月十日 くもり
学校のウサギがしんでしまいました。
とてもかなしかったです。
しいく係のお兄さんが、「あいつがウサギごろしのはんにんだよ」と、『はんにん』をおしえてくれました。
六年生の男の子でした。
なんとなく、わるい人に見えました。
四月十五日 くもりのち雨
帰り道に、『はんにん』に会いました。
なっちゃんに、「ウサギごろしだよ」って教えました。
なっちゃんもひどいと言ってました。
四月十九日 はれ
なっちゃんと帰っているとちゅう、大きな音がしました。
なっちゃんの上に、石がいっぱいのってきました。
ピアニカがこわれてしまいました。
家がたくさんこわれて、泣きました。
学校の先生が、走ってきました。
「いっしょににげよう」と先生が言いました。
近くに『はんにん』と、男の子がいました。
二人は兄弟だそうです。
『はんにん』といっしょににいるのは、とてもイヤでした。
とちゅうで、中学生のお姉さんとお兄さんと会いました。
わたしたちは、やねのある建物にひなんしました。
えいがかんだよ、と先生が教えてくれました。
四月二十一日 はれ
こわいゆめをみました。
泣いていたら、先生が「まほうごっこをしよう」と言いました。
先生はまほう使いだから、みんなどうぶつに変えてしまうのです。
中学生のお兄さんとお姉さんは、サルくんとイヌさんです。
わたしは、バクとよばれます。
バクは、どうぶつ園でみたことあります。
男の子はウサギくんです。
『はんにん』のことは、ウサギくんのお兄ちゃんなので、『お兄ちゃんウサギ』と呼ぶことになりました。
お兄ちゃんウサギは、まほうごっこをすごくいやがってました。
四月二十二日 はれ
ウサギくんは、自分のお兄ちゃんがこわいみたいです。
お兄ちゃんウサギは、まほうごっこがきらいみたいです。
「よりによって、なんでウサギなんて呼ぶんだ」
とおこっていました。
まほう使いが「君はやってないでしょう? だったら、堂々としていなさい」と、お兄ちゃんウサギに言いました。
四月二十五日 はれ
まほう使いが、いろんなお話しをしてくれます。
このままだとニンゲンはぜつめつしてしまう、と言いました。
それに、外には悪いまほうつかいがいるそうです。
四月二十六日 はれ
みんなでお話をしました。
わたしは、「おもいやりがあれば、せんそうはなくなる」と言いました。
みんな「そうだね」「いい意見だね」とほめてくれました。
でも、お兄ちゃんウサギは、おこりました。
「毎日たくさんしんでいて、なんでそんな生ぬるいことが言えるんだ」
と言いました。
わたしのことをバカだと言いました。
それでわたしはくやしくなりました。
「ウサギごろしのくせに」と言ってしまいました。
そしたら、お兄ちゃんウサギにぶたれました。
お兄ちゃんウサギは、泣いてました。
それからお兄ちゃんウサギは、ポケットからカッターナイフを出しました。
それをたくさん、ふり回しました。
まほう使いが、止めようとしました。
「やめなさい、やめなさい」
と、たくさん言いました。
そうしたら、カッターナイフが、まほう使いの首に当たってしまいました。
たくさん、ちが出ました。
まほう使いは首をおさえてすわりこんでしまいました。
みんなさけんでいました。
お兄ちゃんウサギは、何かブツブツ言っていました。
それから大きくさけんで、自分の首を切りました。
お兄ちゃんウサギの顔がどんどん白くなりました。
まほう使いの顔も、真っ白でした。
まほう使いは、お兄ちゃんウサギをエレベータの中に連れて行きました。
わたしたちはどうしたらいいかわからず、ないていました。
「みてはだめよ。あけてはだめ。子どもはみてはだめ」
そう言いながら、まほう使いは、エレベータの扉をしめました。
とてもくるしそうでした。
四月二十七日 はれ
まほう使いが、ドアの中きらみんなを呼んで、お話をしてくれました。
お願いしても、ドアを開けてくれません。
ドアの向こうから、小さいこえでお話をしてくれました。
ニンゲンはせんそうのせいでほろびました。
ここは、まほう使いと、どうぶつだけの世界になりました。
もう、何も心配しなくていいのです。
でも、外の世界には、わるいまほう使いがたくさんいます。
だから、ここから出てはいけません。
そして、さいごに言いました。
「もしも、ニンゲンがあらわれた時、君たちにかかっているまほうはとかれる——そのニンゲンに、みちびいてもらうのよ。君たちのこうふくのために」
そう言ってそれっきり、出て来ませんでした。
ねむってしまったみたいでした。
四月二十八日 はれ
いやなゆめをまたみてしまいます。
なっちゃんがでてきます。
わたしが話しかけるたびに、なっちゃんの上に、石がふってきます。
なっちゃんからたくさん、ちがでます。
なっちゃんが、言います。
「ニンゲンはね、言葉だけでも死んじゃうんだよ」
ごめんなさいと言うと、また、石がふってきます。
もう、何も言わない事にしました。
わたしが、お兄ちゃんウサギのことを「うさぎごろし」って言っちゃったせいで、とてもわるいことがおこりました。
わたしはしゃべらないことにきめました。
四月二十九日 はれ
サルくんとえいがのフィルムのまわしかたをおぼえました。
えいがをたくさん見ていれば、いやなゆめをみなくなりました。
それは、まほうみたいです。
このえいがかんではまほうがつかえるのです。
五月四日 はれ
ウサギくんに、月のえいがをみたい、と言われました。
だから、さがしてあげました。
明日、みんなでいっしょに見ることになりました。
とても楽しみです。