ちなみに作者に剣道経験はない
「おい、知ってるか?剣道部の如月、アイツ行方不明になったらしいぜ!」
「如月が!?マジかよ!?俺、アイツのこと狙ってたんだけどな〜」
「じゃあお前運良かったな!こないだ二組の青山が告ったら、無理矢理試合させられてボコボコにされたらしいからな」
「ひえー!流石『鬼の如月』恐ろしー」
「ねえ聞いた!?如月さん行方不明何だって!」
「聞いた。ここ最近学校を休んでたのは行方不明だったからなんだ。如月さん大丈夫かな……」
「大丈夫に決まってるじゃん!如月さんはあの『鬼の如月』なんだよ。誘拐だろうが遭難だろうが自力で解決して帰ってくるよ!」
「…………そうかな?」
学校全体がそんな狂騒に包まれるなか、食堂の一角に完全にお通夜ムードな一団が存在した。
『会長』と書かれた腕章をした二メートルはあろうかという大男を中心に集まる彼らは剣道部、通称『如月暁美ファンクラブ』の面々だった。
最初に口を開いたのは背の低い男子生徒だった。
「まずいでヤンスよ。如月先輩がお隠れになってからもう三日も経つでヤンス!このままじゃ事態が露見するのは時間の問題でヤンス!」
その男子生徒は陸に上がった魚の様に慌てていた。
「狼狽えるな、ハカセ!こんな時、如月さんなら狼狽えない!」
強い語気でハカセを一喝する会長、しかし彼の声の震えに気がつかない者はこの場に居なかった。
「会長!提案があります!」
元気にそう言ったのはその場で唯一の女生徒、つまり紅一点だった。
「何だ?何か策が有るのか!?片桐!」
「ぴぃ!」
ズイズイっと紅一点に近寄る会長。その様子はさながら小鳥に襲いかかるドラ猫の様だった。
「会長!片桐さんが怯えてるでヤンスよ!」
「そうか……済まなかった……」
ハカセがそうそう言うと会長は素直に引き下がる。
「それで提案って言うのは何でヤンスか?」
「うん。やっぱり如月先輩のことはあの人に話を聞いてみたらいいんじゃないかな?」
「成程、少し癪だがいい考えかもしれない。ほかに意見のある者は!?」「異議なし!」「如月先輩の為だ!泥水も啜ってやるぜ!」「さあ行こう!」
誰も反対しなかった。それが最善の選択だと皆分かっていたのだ。
「よし!それじゃあ俺とハカセと片桐でヤツの所に行ってくる!他の者はひとまずここで待機!」
そう叫ぶと会長は駆け出した。