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秋の夜長のこんな日は ー呪術師とその呪術ー

作者: ナチュラル9

「ミナミさん、占い師のバイトやらないかい?」



プライベートで入っている趣味のコミュニティの仲間の1人から声を掛けられた。


占い師?


お金はあればあっただけ良いけど、占い師っていうのは素人がバイトで出来るようなものなのか、そう思い疑問をぶつける。


「いや、ミナミさん、人の話を受け止めるの上手じゃない。そういう人、向いてるんだよね。それに教えてくれる人もいるからさ。」


そんなもんなんだ、知らなかった。

まあ、でも小銭でも稼げたらラッキーかもしれないなと思い、そのグループに入ることにした。



占いに詳しくないからよく知らなかったけど、最近は電話占いというものがあるそうだ。

お客さんが1分いくらで話した分数だけ後からお金を振り込むシステムらしい。

1分の金額を見て驚いた。高い。こんな高いものにお金を払う人なんているのか。


そう思って聞いてみると、お客さんはびっくりするほど沢山いるという話だった。



やりはじめてわかったのは、相談の9割が、不倫。


相手の男性とどうにか結ばれないか、相手の態度が最近冷たい、それでも私のことを愛しているか、人はかわっても内容は一様に同じ。


相手の男性が結婚は考えてないことも、そろそろ切りたいと思っているだろうことも、客観的に聞けば、会ったことのない人の関係でもわかる。

ツインレイやらツインソウルやら言うと大満足して電話を切り、またしばらくすると同じ内容で掛けてくるのにうんざりしてきた。高次元に行くために試練が多いとか、嘘八百もいいところだ。おまけに少しばかり人気まで出てきている。


だんだん苦しくなって、ノウハウを教えてくれた人に気持ちを吐き出したら、ぽつりと言われた。




何のために、その人は、わざわざ高いお金を払って電話をしてくると思いますか?




世の中的に良くないことをしていることも、いつかはやめなければならないことも、本当は全然幸せでないことも、本人は痛いほどわかっている。

周りにろくに相談もできずに、さんざん悩み苦しみ抜いて最後に来るのが顔の見えないこの占い。




じゃあ、占い師は、何を求められていると思いますか?  




そう言うと、付箋の貼ってあるボロボロの本をすっと差し出してきた。



答えも出ずに、夜、缶ビールを飲んでボーッとする。

ああそうだ、貸してくれた本読まないとな、そう思い本をカバンから取り出す。



付箋は、主人公がインチキ呪術を暴くためにある村の呪術師に弟子入りするシーンに貼られていた。


最初はインチキを見抜くことばかり考えていた主人公だが、ある時、偶然にも他の村の呪術師との対決に勝ってしまう。


そして、その時治療した者は快癒する。


自分の呪術は医療ではなく、インチキなのに。


そこから主人公は、呪術師としての対決をどんどん求められ、その度に勝利し、治療したものを癒し、ついには偉大なる大呪術師になっていく。最後は自分の呪術に誇りすら持って。




「この呪術師みたいなものかもしれないなあ。」


ボロボロの本をさすりながら独り言のように呟く。


主人公はインチキとわかりながらも、求められる人に真摯に呪術をかけ続ける。

インチキ呪術師が大呪術師になったように、インチキ占い師も何者かになれるかもしれない。



「少し、本気で勉強しようかな。」


そう思った秋の夜だった。


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