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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第8話 冒険者誕生

「なるほどねえ、車にはねられて、死んで、女神様にこっちの世界に飛ばされたということだね」


 小屋で斎の話を聞いたマルティナは、上のようにまとめた。

 シャルロットとマルティナ、そして斎はチュニック姿である。リリーはイノシシをバラし終えて川で水浴びをした後、ロングのワンピースに着替えていた。

 今は部屋の真ん中にある石造りの炉を囲んでいる。上では鍋が煮えていた。


「しかし、かわせないような速度で突っ込んでくる荷馬車とは。暴れ馬にあたったのか、かわいそうに」


「いや、荷馬車じゃなくてですね、トラックっていう自動車で、燃料で動くんです」


「燃料?」


「ほら、石油とか……」


「石油なら聞いたことある」マルティナが言った「燃える水だろ。でもそれでどうやって車輪を動かすの?」


「もういいです……」斎は半ばあきらめるように言った。


「マルティナ様!」シャルロットが割って入った「さっきから聞いていますが、話が荒唐無稽に過ぎます。それに勇者として転生したというのなら、なにか能力があてもいいのではないですか。こやつには、なにもないように見えます」


「まあ、シャルロット、そう言うな」マルティナは言った。「わざわざ『転生者』を名乗る人間がいるかい? それも、こんな時期に」


「それは……」シャルロットは押し黙った。


「じゃあ決まりだよ。転生者ということは勇者。世界を救う存在。私たちと一緒に来てもらわないと」


「待ってください」斎は言った「俺はリリーさんにお世話になって、たぶんまだ負債を返し切れていないと……」


「ああ、それは大丈夫ですよ」


 リリーはそう言った。


「え?」


「いえ、べつに、どちらかというと、お荷物、ですので」


「そんな!」


「じゃあ、今日はここに泊めてもらうとして、出立はどうしよう?」


「1日休めば十分でしょう。明日には」シャルロットは言った。


「じゃあそうしよう。それまでにかれをいっぱしの巡礼者にしないとね」


 そう言うとマルティナは、腰の袋から二枚の貝殻を取り出した。


「ほら、あなたのために用意しておいた貝殻だよ」


「貝殻?」


「そう。巡礼者はこれをつけるんだ。ホタテはこうやって二枚の貝殻を合わせるだろう? これが祈る時に手を合わせるのに似ているからって、巡礼者の象徴になっているんだ」


「なるほど」


「さあ、これを首にかけてあげよう」


 そう言ってマルティナは斎の首に、紐に結ばれた貝殻をかけた。


「さあ、あなたも巡礼者だ」


「しかし、巡礼というのは? 先ほど冒険者のカモフラージュとおっしゃっていたような」


「そう、聖地へ向かう旅だ。帝都からのびるその道は山を越え、谷を越え、そして海に出る。多島海を東に向かい、そして巡礼路は多島海の果てにある聖地イターキ島へと至る」


 イターキ島とはこの国の開闢にかかわった12の神々が祀られる総本山である。

 マルティナは、床の土に木の枝でこの世界の簡単な地図を描いた。


「我々のレモリア帝国はこの大陸の西の端にある。帝都がここで、帝都の南を占めているのがコンラッド伯爵領。いまいるのがそこだ。そして帝国の北と西には荒々しく広大な海が、東には砂漠が広がっている。大陸に南には、多島海を挟んで、南方大陸――テラ・バーバリアーナがある。船でわずか3日の距離だ。そこにあるマウハリム王国もレモリアの属領だね。そして多島海の東の果て、『葡萄酒色の海』に浮かぶ聖地、そこがイターキ島だ」


 そして、巡礼路はそこで終わるが、海の交易路ははるか東に延びており、砂漠のオアシス都市国家フルミニアに至るのだと付け加えた。


「そして、私たちの目指すところは、まずイターキ島」


「待ってください、話が見えてきません」斎は言った。「そのイターキ島に行くのなら巡礼じゃないですか。なんで冒険者だって」


「続きがあるんだよ。まず私たちはイターキ島につく。ここは聖地であって、聖俗の境目、そして人の世界と神々の世界の境目。そこから南に広がる『葡萄酒色の海』こそ、私たちの目指す、お宝があるところだ」


 斎は、つばをごくんと飲み込んだ。


「お宝、というのは……」


「古代の神々が隠した秘宝、とでも呼ぶべきかな。なにせ、『葡萄酒色の海』に隠されているんだから」


「それを手に入れに行く、と」


「そういうこと」


「なんだかおもしろくなってきましたね。冒険者らしい」 


 斎は内心に思っていた。ここに来た本当の目的は女神様曰く世界を助けることだ。しかし、現在の力ではどうすることもできないし、そもそも戦乱の予兆など周りにはない。少なくとも冒険者や勇者としての力を蓄えるには、この二人と旅に出るほかない。


「それはぜひ行ってみたい」


 マルティナは斎のその言葉を聞くと、にやりと笑った。


「本人も納得してくれたし、決まりだね」


 そう言ってマルティナは葡萄酒の入った杯をかかげた。


「冒険者の誕生を祝って、乾杯!」


「「乾杯!」」

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