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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第5話 イノシシ狩り

 夏の暑さのピークも過ぎたころのことである。


 その日、斎は普段と同じように、リリーと一緒に狩りをしていた。


 弓の扱いにも慣れてきて、小動物であれば弓矢で狩ることができるようになっていた。


 一時、火の魔法による狩りも考えたが、森林火災の危険性が高いからという理由でリリーに却下された。そのため、狩りをするには結局弓矢を鍛えるしかなかったのだ。


「そっちに行きましたよ!」


 リリーの声がする。今日はリリーが追い込み役で、斎が仕留める役であった。

 獲物はイノシシ。斎としては初めての大型の動物だ。


 ガサガサ、と茂みが動き、イノシシがこちらへ走ってくるのが分かる。

 その脳天に矢を叩き込むのである。


 よくよく引き付けて射る必要がある。緊張で汗が背中を伝う。


「南無八万大菩薩!」


 斎はそう叫ぶとビュッっと矢を射る。


 矢はまっすぐイノシシへと飛んでいく。

 が、しかしここで予期せぬことが起こった。


 イノシシが、不意にコースを変えて矢をよけたのである。


(かわされた!)


 斎が次の矢をつがえている間にも、イノシシは彼の方へと走ってくる。


 すぐに第2射を撃つ。これもかわされた。


(やばい、こっち来る!)


 イノシシはあろうことか斎の方に向かって突っ込んでくるのである。そのパワーは計り知れない。まともにぶつかれば怪我では済まない。


 しかし逃げようにも足が速いのはイノシシの方である。


「イツキさん!」


 リリーの声が聞こえる。イノシシは、目の前まで迫っていた。


(やられる!)


 そう思った次の瞬間だった。


 パシュ、っと矢が左の方から飛んできて、見事イノシシの目に命中したのである。


 イノシシはその場で断末魔の悲鳴を上げると、ドスンと地面に倒れこんだ。


 ごそごそと藪が動く。

唖然としてへたり込んでいる斎の目の前に現れたのは、白いローブに身を包んだ二人組だった。頭はフードで隠している。一人は右手に弓を持っていた。


 リリーが斎の方へ駆け寄ってくる。そしてその二人の闖入者と向き合った。鋭い目つきで警戒している。


 弓を持っていた人物が、ふっ、と笑った。


「久しいな」


 それは女の声だった。フードを取ると、茶髪の若い女性の顔が現れた。年齢は斎と変わらないか、少し若いくらいだろう。身長は斎より少し低く、165cmといったところか。


 それを見て、リリーは目を丸くした。


「マルティナ様!」


 リリーはそう言って跪いた。


(あれ、そんな偉い人なの?)


 斎は思った。


「ご無沙汰しております。今は教会騎士団にいらっしゃるのでは?」

「うん。そうだよ。でも用事があってね」


 そういって彼女は首から紐でぶら下げていた二枚のホタテ貝の貝殻を指さした。


「なるほど。巡礼の旅ですか」

「と、いうのは旅に出る建前だけれども」

「そうでしょう。この地域にはマルティナ様の崇めるキュベレー神の祠はありませんから」

「よくわかっているね。そうだよ、リリー、あなたに用事があって来たんだ」


 リリーは首を傾げた。


「マルティナ様には私の持つ弓の技術はすべてお教えしたはずです。もう教えることはないと思うのですが」


 マルティナと呼ばれた女性は、ははは、と笑った。


「ちがうよ。弓のことじゃない。あなたから聞いた、昔話のことだよ」

「昔話?」

「そう。神託があったんだ」

「神託……?」


 リリーはつばをごくりと飲み込んだ。


「そう。神託。この国に、70年ぶりに『転生者』が現れるという、神託だよ」


 転生者!


 場が凍り付いた。斎は恐る恐るリリーを見上げた。

 彼女は目を見開いていた。


「リリー、あなたは昔転生者と合ったことがあると言っていたよね。だからなにか手掛かりとなりそうな情報があるかなと思って来たんだけど……」


 マルティナは視線を俺の方に落とした。


「聞くまでもないかもしれないね」


 そしてマルティナはしゃがみ込んで斎に話しかける。


「ねえ、あなたは『転生者』?」


 斎はつばをごくんと飲み込んでから頷いた。


「そうです……俺が異世界からの転生者です。しかし、だったらなんだというんですか」


 マルティナは、にやり、と笑った。


「ねえ、あなた、冒険はしたくない?」


「へ?」


 予想外の一言に斎はきょとんとしてしまった。

 そんな彼のためか、彼女は再び繰り返して言うのであった。


「冒険者になって、私たちと旅をしない?」

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