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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第54話 上陸

 一行が、島を見つけ、その土を踏んだのは、さらに2日後のことであった。


 なんだ、葡萄酒色の海だなんて、怪物なんて出ないじゃないか、そう一同が胸をなでおろしている中、マルティナだけはあたりを見回しながら、胸を高鳴らせていた。


(夢に見た通りの光景だ。ここが、ヤオス島に間違いない)


 彼女は夢の記憶をたどる。海岸線、そびえる火山、そして木々の植生。すべて夢の通りであったのである。


「マルティナ様」


 話しかけてきたのはシャルロットであった。


「船頭たちは、水が補給出来たらすぐに出発すると言っています」


「それは無理だよ」


 マルティナは答えた。


「ここに私たちを運んだのはキルケーの遣わした風の精だよ。ここで用事が済むまで、風の精が仕事をするとは思えない」


 そう言って、そういえば洞窟はあちらの方だったか、と思いながら、マルティナは歩き始めた。


 その時である。


 目の前の茂みが動いた。


 そして何かが飛び出す。それは人影であった。3人。やつれたボロボロの服で、刀を構えている。痩せこけているが、目だけはぎょろぎょろしている。


『食い物をよこせ!』


 マウハリム語であった。


 マルティナは直感した。これは遭難して流れ着いた海賊だ。


「残念ながら今私も持っていないよ」


 彼女はレモリア語で答える。


 しかし彼らは解さなかったようだ。武器を振りかぶって、マルティナに切りかかろうとする。


 とっさにマルティナも、剣を抜き放とうとした、その時である。


 ひゅっという風切り音。


 海賊の前の地面に、矢が突き刺さった。


 たじろぐ海賊たち。そしてマルティナの後ろから声がする。


『動かないでください! 動くと今度は頭を撃つのです!』


 ライラの声であった。そして傍らには弓を手にした斎が立っている。


 次の矢を斎はつがえている。


 次いで駆け寄ってくるシャルロット。抜き放った剣を突きつけるに及んで、海賊らは武器を捨てて降参した。


「マルティナ様、こいつらどうしましょう。切り捨てましょうか」


 シャルロットがそう言ったが、マルティナは首を横に振った。


「こうやって横に振る首がまだある。私は無事だよ」


「‥‥‥マルティナ様がそうおっしゃるのでしたら」


 シャルロットは剣を鞘に納めた。


 そこにライラが追いついた。斎、そして後ろから恐る恐るセリーヌがついて来る。


「さあ、ライラ、通訳してくれるかな」


 マルティナは言う。ライラはマウハリム生まれの獣人である。そのため、さきほども大声でマウハリム語で呼びかけることが出来たのであった。


 そしてマルティナが話す言葉を受けて、ライラはそれを翻訳した。


『我々はイターキに向かう巡礼者である。船が難破してここにたどり着いた。お前らは何者か』


 海賊たちは答えた。自分たちはマウハリムの船乗りである、漂流してここに流れ着いたのだ、と。

 そしてもう3日も物を食べていないと言った。


「それはかわいそうに」マルティナは言った「そうだ、セリーヌ、船の方に戻って、すこしばかり食料を恵んであげたらどうだろう」


「いや、でも……」


 マルティナはははん、と思った。そしてライラに耳打ちする。


 ライラは言った。


『あなたたちは全部で何人ですか』


 3人、という言葉が帰ってくる。


「たった三人?」


 マルティナが思わず声を上げた。ライラは、3人の言葉を、さらに続けて訳した。


『……はじめは10人いた。しかし7人は食われた』


「食われただって?」


『そう、奥の洞窟にいる化け物にやられた』


「あなたたち、その化け物を見たのね!」


 マルティナが語気強く言う。しかし海賊たちは答えない。


「どうなの!」


 海賊たちはびくんとして、おびえるように答えた。


『見た、見たさ! 黒光りするうろこがあって……ああ、思い出したくもない!』


 マルティナはにやりと笑った。そしてセリーヌに言った。


「セリーヌ、すぐ船に戻って、彼らのために堅パンとワインを持ってきて」


「いや、でも、彼らは海賊ですよ! マルティナ様に弓引いた! ただでさえ少ない食料を分けるなんて……」


 セリーヌはなおも反対するが、しかし、マルティナは笑って返す。その眼は輝いている。


「彼らは重要な情報を持ってきてくれた。王冠の場所が分かった」


 セリーヌはごくんとつばを飲み込んだ。


 マルティナは海賊たちに言うのであった。


「さあ、いまから食事をもって来させよう。ただし条件がある。終わったら、その洞窟に案内してほしい」


 ライラが通訳した言葉を聞いて、海賊たちは震えあがった。しかし背に腹は代えられない。ここで断れば、飢え死にするか、斬られるかと思ったのである。


 彼らは頭を縦に振った。


「うん、よきかな、よきかな」


 マルティナは笑って言う。そしてセリーヌが堅パンを持ってくると、それを手ずから割って、彼らに差し出したのであった。

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