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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第52話 洞窟にて

 洞窟の地面は染み出した地下水により濡れていた。その水たまりにたいまつの炎が映し出される。


 一行は洞窟の奥へと進む。斎は、対ゴブリン戦のことを思い出して、気味が悪いなと思った。


 やがてやや広い空間に出た。天井が大きく崩落して、丁度昇ってきた月の光が差し込んでいる。月の光は、大きな水たまりに反射していた。


 キルケーは水たまりの前で立ち止まった。彼女が何かを唱えると、水面に波紋が広がる。


 そして月明かりの中、一つの姿が浮かび上がった。


 それは子供であった。10歳程度の男の子である。しかし幼いながら高貴な雰囲気を備えており、威厳を感じさせた。


 キルケーは頭を下げた。


「陛下、お連れいたしました」


「長かったですね」


 その男子は言った。そしてマルティナたちの方を見た。


「あなた方が、王冠を探しているのですね」


「そ、そうです」マルティナは驚いて一瞬声を詰まられた「と、すれば、あなたが」


「オットー・フォン・レモリアです」


 マルティナは頭を下げた。それを見て、ほかの4人も頭を下げる。


「面を上げてください」オットー2世の霊が言った「よくぞ来られました」


「とすれば、私に夢でお告げを下されたのは」


「その通りです。私がくだしました」


「……畏れながらお伺いしてもよろしいでしょうか」


「なんでしょう」


「なぜ私を選ばれたのですか。そしてなぜ王冠を封印されたのですか」


 オットー2世はにっこりと笑った。


「それはあなたが一番知っているはずです。あなたの御父君がなにを考えていらっしゃるか、ということです」


「父が?」


「ええ。いまや国政を牛耳っているのはアーレンベルク家。それに異議を唱えていらっしゃる、そうでしょう」


「その通りです」


「ただ反乱を起こすというだけなら、難しいでしょう。なにせ向こうの方が軍隊を持っています。しかし権威はどうでしょうか。権威は今なお、王家にあるはずです」


「しかしその権威の源の王冠は……」


 そう、権威が足りない。その権威を回復するため王冠を取り戻すのだ。だから……マルティナはそこまで言ってはっとした。


「もしや」


「そうです、私は、王家以外の者に王冠が渡ることを恐れたのです。ですから、ヤオス島にそれを封印しました。私の悪い予感は当たりました。王家以外の者が、権力を持つに至ったからです。そんなとき、あなた方が立ち上がろうとなされたのです」


「ということは」


「そうです。それをお助けしようと思います。ですから王冠の場所をお教えしました」


 マルティナは頭を再び下げた。


「王冠は島の南の洞窟の奥に隠されています。あなた方ならきっと、見つけだすことができるでしょう」


 オットー2世は、今度は斎の方を見た。


「あなたが、イツキ・トーゴ―ですね」


「そ、そうです」


 斎は突然話しかけられ恐縮した。


「マルティナを守ってあげてください。それが転生者としてあなたの使命です」


 そしてふっと影は消えた。後にはただ、月明かりが残るだけだった。


 キルケーは腰のポーチから小さいお守りのようなものを取り出した。それをマルティナに渡した。斎がそれを覗き揉む。アッという声を上げた。まるで小さな仏像の様に見えたのである


「大昔の転生者が彫ったもの。海を渡る際の、お守りとなるはず」


「その転生者はどうなったの?」


「オットー2世をここまで連れてきたけれど、ひどい怪我をしていたから、ここに残った。この木像を掘った後、亡くなった」


 斎は頭を下げた。


 キルケーは踵を返した。そして言うのだった。


「明日朝、マウハリム船籍の商船が沖を通過する。イターキに向かう船。これに拾ってもらうようにするのがよい。いかだを準備している」


「礼を言います」マルティナは言った「これで希望が持てました」


「では家に戻ろう」キルケーが言った「早く寝るのがいい。明日は早く起きなくてはならない」


 6人は来た道を戻った。月明かりが夜道を照らす。それはまるで、東の海へと続いているかのようであった。

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