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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第4話 異世界生活ことはじめ2

 夏である。


 斎がこの世界に来たのは春であったが、時が流れるのは早いもので、2か月もすれば本格的な夏到来と言うわけである。


 そしてこの2か月で、斎にも、いくらかこの世界のことについてもわかるようになってきた。


 まず暦であるが、この世界の1年もだいたい365日であった。月も12ヵ月あって、それぞれ30日と31日の月が交互に来るのだ。11月と12月は双方30日で、合計365日となる。しかしこれでは何年もすれば暦にずれが生じるので、4年に1度閏年があり、12月が31日となるのである。この点は地球の暦法と似ている。


 しかしその暦とは一風違ったカレンダーをリリーが持っているのをみかけた。斎がこれは何かと聞けば、なんということはない、エルフ暦だというのである。


 エルフ暦は29日と30日の月12個からなる。これは月の満ち欠け(この世界にも月があり、そしておよそ30日で満ち欠けするのである)を基準としている。しかしそれでは1年に約11日足りない。それではどうするかとといと、17年に9度、13月がある年があるのである。すなわち太陰太陽暦である。


「エルフの祭祀はこの暦でなくてはいけませんから」


 リリーはそう言うのであった。


 そして文明レベルであるが、これはまあ、予想通りの中世レベルであった。


 家は先に言ったように木造の小屋に藁でできた屋根。壁の一部は泥を塗って補強している。中は狭くて暗く、小さい明り取り兼排気口が開いているくらいである。そしてつい立て越しに、建物は馬小屋も兼ねていたのである。獣臭さや馬糞の臭いは斎にとって今でも慣れないものだった。


 ベッドは固く、その上に藁を詰めたマットレス(ごそごそと音がする!)に、リネンのシーツがかけられている。やや大きいサイズのベッドであり、先ほど説明したように斎とリリーさんで隣り合って寝ている。いくつもベッドを持っているのは金持ちであるとのことで、これはもう森番などという身分ではしかたないようである。


 そしてこのベッドの上で目が覚めるところから1日は始まるのである。


 目覚まし時計替わりは飼っている鶏である。これは日の出より早く鳴くのである。それに続いて最寄りの村から教会の鐘の音が聞こえてくる。これでごそごそ斎とリリーは寝床から這いだす。


 起き抜けの格好は二人とも下着姿である。もちろん昨晩いやらしい行為があったという意味ではない。これでもかなり慎みを持った格好なのだ。


 なぜなら、もともとは、彼女は寝るとき裸であったというのである。


 これはエルフの特殊な性癖か何かかと思ったが、この世界では裸で寝るのが当たり前なのだ。


 しかし、いくらこれがこの世界の常識であり、街灯もなく日が沈めば真っ暗になるといっても、全裸の美女が隣に寝ているというのはいつか自制心のたがが外れそうである。


 斎はリリーにお願いして何か着るようにお願いした。リリーは仕方ないですね、と言って白いシュミーズのような下着を着てくれた。丈が太ももまでと短く下が見えそうで、なおかつパンツもブラジャーもなく薄い生地から女体が透けて見える気もするが、ないものは仕方ない。


 もちろん斎も寝るとき服を着ていた。といっても膝くらいまであるパンツ一丁である。シャツもできればほしかったが、居候の身で何でも要求するのはさすがに失礼というものである。


 そして起きた二人はまず顔を洗と手を洗い、口を漱ぐ。


 その後下着の上に服を着る。服装は斎もリリーもチュニックである。家でゆったりするときはワンピースのような服を着ることもあるというが、仕事着としてはチュニックがよい。動き回りやすいように丈の短いチュニックである。それにズボンをはくわけだが、この時初めてリリーさんはズボンの下にパンツを履く。寝るときもつけてほしいと斎は頼んでみたのであるが、無常なるかな、どうしても窮屈すぎてつけることはできないというのが彼女の返答であった。


 なおこのズボンというのはこの国の庶民はあまり履かない。もともとは騎馬に優れたエルフの発明品であり、また木の上などで生足を保護する目的もあったのだという。軍人や一部のバサラには好まれるらしいが、一般的な服装ではない。


 そして朝食をとる。朝食はパンとエールである。朝からエールを飲むのかと思うかもしれないが、飲むのである。そこまで度数は高くない。きれいな真水は貴重である――ただし、リリーは魔法で水を出したり、浄化することができるので、酒を飲みすぎないといけないことはなかった。


 そして次に行うのが洗濯――これは2日に1回程度の頻度だった。服を灰汁で洗うのである。他にも、アンモニア臭のきつい自家製の「特殊な洗剤」があったが、これについては言及は避けておく。斎は正体を知ってからというもの、後者の方がよく洗えるにもかかわらず、かたくなに灰汁の使用を続けたのであった。


 洗濯物を干すと見回りに出かける。見回りをしつつ、弓の訓練と称して狩りを行うこともある。


 2か月たって、やっと斎は弓が引けるようになっていた。まだまだ全く当たらないのは仕方ない。2か月ごときで弓を習得できるわけがないのである。


 昼は小屋に戻ることもあれば、持ってきたパンを出先で食べることもあった。


 そして日が沈む前に小屋へと戻る。夜の森は森番でも出歩くことを恐れる、いや森を知っている森番であるからこそ恐れるのかもしれない。野獣や魑魅魍魎のうごめく魔界と化すのである。それは教会の森であっても同じであるようだ。


 そして小屋に帰ると夕食である。パンと、スープ、それから狩りがあった日は肉がでることもあった。そしてエールと、時々はワインも出た。


 夕食が終わるとあたりは真っ暗。となるとすることはなく、もう寝るだけである。

 斎は寝る前に例の瞑想や魔法の練習をすることもあったが、リリーは早々と床につく。


 ところで風呂とトイレのことである。


 森番の小屋に風呂はなかった。代わりに小屋のすぐ後ろを小川が流れておりここで水浴びをする。冬は湯で濡らした布で身体を拭くだけでしのぐこともあるというが、水浴びができる季節ではほぼ毎日水浴びをするのだという。エルフはきれい好きなのだ。そしてこのタイミングで下着を取り換えた。


 そしてトイレであるが、これはもう、いたしかたなかった。小屋のすぐそばに天幕があり、穴が掘られていた。そして出されたものは土と混ぜて肥料として売り出すのだという。


 これが1日の生活であった。日々変わらず、2か月続いてきた生活であった。

 

 そして、これが勇者たるべく転生した異世界の生活なのであった。


 はやく冒険らしいことができればと思いながら、日々を悶々として過ごしていたのである。


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