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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第46話 港町にて

 船は決まった。ジョルジ氏の貿易船であった。東方に向かう際、イターキを経由するのである。


「ではすぐ出発なのですか!」ライラは言った「この街も嫌なのです。みんな小生を変な目で見てくるのです。はやく出発したいのです!」


「いや、風を待つ必要がある」マルティナは言った「今はもう秋も後半、いい風がなかなか吹かない。吹くまで港で待つことになる」


 ライラが愕然とした。


「どうするのですか、奴隷商人が小生を見張っているのです!」


「大丈夫だよ、ライラ」セリーヌが言った「ボクがいるから、守ってあげるよ」


 セリーヌはウインクをしたが、ライラは反吐が出そうだという顔をした。


「全く信用ならないのです……」


「まあ、ライラ、セリーヌは武力はないけど頭はいいから、たぶん」マルティナが言った「今は待とう。それくらいのお金はモンべリエル公のおかげであるから」


「仕方ないのです……」


 ライラはそう呟くのであった。


***


「お姉さん、きれいですねぇ、どうかその秘訣を教えてもらえませんか」


 セリーヌが酒場で隣の席の若い女性に絡んでいる。女性はセリーヌが男であるとは思っていない。美人だとおだてられ、美容の秘訣を聞かれて舞い上がっていた。エールを飲んでいたこともあり、女性がしどろもどろになっていると、セリーヌは言った。


「宿をとっているんです。できれば、そこで教えてくれませんか」


 セリーヌがそう言って、女性も心を動かしかけた瞬間、酒場のドアがばんと開いた。


「セリーヌさん!」


 ライラの声であった。


「探したのです! さあ、仕事なのです!」


 ライラは酒場につかつかと入ってきた。そしてセリーヌの襟首をつかんだ。


「ちょっと待って、このお嬢さんはまだ私と話を……」


 女性がそう言った瞬間、ライラがカウンターをバン、と叩いた。


「セリーヌさんは女装色男なのです! 惑わされてはいけないのです!」


 そしてセリーヌの方を睨みながら言う。


「さあ、セリーヌさん、患者なのです!」


 そう言ってライラはセリーヌを引きずるようにして外に出た。一同は唖然としている。ドアの隙間から飲み代とばかりに銀貨が投げ込まれた。


「ねえ、ライラ」外に出たセリーヌは言った「いいところだったんだよ」


「他の人は旅銀を稼いでいるのです。小生たちもするのです!」


「きみと?」


「はい! 患者がいるのです!」


 そう言ってライラはセリーヌの手を引いて駆けだすのであった。セリーヌは路地を通行人とぶつかりそうになりながらひかれていくのであった。



***



「さあ、この人なのです。外科医ギルドからは人手が足りぬと言われて、小生に相談が来たのです!」


 連れていかれたのは集合住宅の一室であった。狭い部屋で、ベッドの上で一人の老婆があえぐような呼吸をしている。耳をすませばヒューヒューという音がする。シーツには痰や血がこびりついて不潔である。


「昨晩からこうなってきたようなのです。いままでも何度かあったようですが……」


「上体を起こしてみて」セリーヌは言った「どうかな」


 家族に介抱されながら老婆は上半身を起こした。


「す、少し楽になりました‥‥‥」


 老婆は言った。セリーヌは確信した。おそらくは心不全である。


「ライラ、瀉血の用意を」セリーヌは言った「血を抜くんだ。すると少しは楽になるだろう」


 セリーヌはすぐ桶とナイフを準備した。紐で老婆の上腕を縛り、浮き上がった静脈にナイフで切れ目を入れた。血が出てくる。ライラには手慣れた手技であった。


 2ポンドばかり血が溜まるとセリーヌは言った「終わりだ。紐を解いて。圧迫止血を」


 ライラは麻布で傷口を押さえた。


「どうですか?」セリーヌは尋ねた。


「少し、楽になりました」老婆は言った「ありがとうございます」


 セリーヌは頷いた。そしてライラとともにその家を後にした。



***



「さすがセリーヌさんです」ライラは帰り道で言った「あれを治すなんてすごいのです」


「いや、あれは対症療法に過ぎないよ」セリーヌは言った。


「対症療法……?」


「そうだよ。今はしのげるけれど、血を流しすぎると人は死ぬ。あの老婆も、そのうち限界になる」


「で、では」ライラは目を見開いた「小生のしたことは!」


「いまは急場しのぎにはなる。でも、本当の治療法はないんだよ」


 ライラはしゅんとした。そして二人はその後無言のまま、宿へと戻るのであった。



***


 トゥールーズについて8日が過ぎたころである。することもなく宿で斎、シャルロット、セリーヌ、ライラが斎自作の雀牌で麻雀を打っていたころでである。


 マルティナが客室に飛び込んできた。


「ついに来たわ!」マルティナが叫んだ。


「どうしたんですか、マルティナ様?」斎が言った「何か良いことでも? 赤飯ですか?」


「何を言っているの! やっといい風よ! 今日の午後に船が出る!」


 一同はがばっと立ち上がった。


「じゃあ、ここから脱出できるんだね」セリーヌが言った「斎によくわからないルーファンのボードゲームでまくられる生活から抜けられる!」


「そうだ。みんな、トゥールーズから脱出だ」マルティナは言った「港へ行こう、聖地へと出発だ!」

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