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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第42話 宴会③

 上座に戻ったマリーはヴァンディエール侯の隣に座った。主賓の席が主催者の隣であるからだ。一方ソフィーはフロリアンの婚約者であるがまだ結婚はしていないので、席は端である。


「よくいらっしゃいました。侯爵殿‥‥‥遅かったわね」


「いやーねーぇ、乙女は支度に時間がか・か・る・の!」そう言ってヴァンディエール侯はマリーに艶かしい視線を送った。ウインクを添えて。


 マリーは目頭を押さえた。


「あら、頭痛なの、大丈夫~~? お薬、飲むかしらぁん?」


「いいえ結構」マリーは言った。そして楽団の方を指さした「それより、あれはなんなの。義妹が苦い顔をしていたわ」


「あれはいい一座よ。何でもしてくれるわ。何でもね」


「なんでも、と言うと?」


 ヴァンディエール侯が顔をマリーの耳元に寄せた。


「帝都の情勢はご存じかしら」


「さあ、何も聞かないわね。何かあったのかしら」


「陛下が非公式な会合を繰り返し開いているのよ」


「ジギスムント陛下が?」


「ええ。そこの会の余興として、あの一座を送り込んだの。するとね、なんと集まっていたのは反主流派の貴族や聖職者だったというじゃない。それがどんちゃん騒ぎをしているの」


「陛下が反主流派と……」マリーははっとした「まさか……」


「さあ、そこから先は憶測でしかないわ。でも面白いことに集まっていたのは人間だけじゃないのよ」


「人間だけではない?」


「ええ。エルフの神官がいたらしいわ。女性の神官ね」


「エルフの宗教といえば髑髏本尊を祀る邪教じゃない。淫祠邪教の類はアーレンベルク家が弾圧しているんじゃないの。帝都でも宰相閣下が弾圧の先頭に立っているんじゃないの。そんなのと関係を持っているということは穏やかではないわ」


「そう。だからこれはまだ知られてはいないわ。部外者で知っているのはあたしと、あなただけよ」


「なぜ私に話したの。うちはアーレンベルク家と繋がりがあるのよ」


「あなたもそれほど単純でないのではなくて?」


 ヴァンディエール侯爵はにやりと笑った。マリーはため息をついた。


「本当にあなた傾奇者ね」


「あら、あなたもそうじゃないの」侯爵は言った「冒険者を騎士にしたらしいじゃない」


「ええ、そうね」


「この質素なホールもそうだけど、質素で保守的なあなたが、どうしてそんなことをしたのかしらと思ったのよ」


「功績があったからよ。それに気になることがあって、少しでも話をしてみたかったから」


「気になる?」


「ええ、彼と一緒にいる茶髪の女性よ。エーンハウゼンと名乗っていたけれど、そんな家はないわ。偽名よ」


「あら」侯爵は驚いた顔をした「じゃあなぜ見逃したの?」


「どこかで彼女の顔に見覚えがあったのよ。たしか大昔帝都に行ったときに見たことがある気がするわ。誰だったのか思い出せないけれど」


「どこかの貴族には間違いないのね」


「ええ。そんな貴族がなぜルーファン人やゴリアール、果ては獣人を連れて旅をしているのか。すごく面白そうじゃない」


「呆れた、ずっと私より傾奇者じゃない」


「そうかもしれないわね」


 マリーはふっと笑った。


 その時、マリーに近づく影があった。セバスティアンである。


「お嬢様」


「あら、セバスティアン、どうしたの?」


「公爵閣下がお戻りです。至急お話があるそうで、部屋までお越しくださいとのことでした」


「それは一大事ね」そう言ってマリーはヴァンディエール侯爵に頭を下げた「ちょっとだけ失礼するわ」


「あら、公爵閣下はおみえにならないの? あたしもお目通り願いたいわ」


「公爵閣下におかれてはファルクサよりお帰りになったばかりでお疲れです。ただお嬢様に至急話があるということでありますので。ご容赦ください」


 そういってセバスティアンが頭を下げた。


「あら、仕方ないわねぇ」侯爵は言った「じゃあまたの機会にしようかしら」


「申し訳ありません……さあ、お嬢様こちらへ」


 マリーはセバスティアンに促され席を立つ。


「フロリアン!」マリーは下座の方へ声をかけた「侯爵様のお相手をお願いするわ」


 その声に応じて、フロリアンは席に舞い戻った。入れ替わるようにマリーはその場を後にした。


「フロリアン・ド・リュクルイーズです」


「あら、かわいい子ね。筋肉質なのもいいけれど、こういうのもたまらないわ」


 侯爵は指をくねくねさせながらフロリアンへの距離を詰める。

 そこに割って入ったのがソフィーであった。鋭い瞳が侯爵を睨む。


「侯爵様、何をしておいでですか」


「何って、かわいい子をめでているだけじゃない。それよりあなた誰なのよ」


「こちらは僕の婚約者のソフィーです……こら、ソフィー、侯爵様に失礼じゃないか」


 そう言ってフロリアンはヴァンディエール侯爵に謝罪した。


「どうか僕の婚約者の無礼をお許しください」


「いいわよ、かわいいから許してあげる……そういえばあなたなのよね、うちの一座に苦言を呈しているとかいうのは」


「ええ。あれは不道徳ですわ。あんな露出が高いのは、神の道に反しております」


「あらあら、あなたの婚約者様は、とても保守的で信心深いのねぇ」


「ソフィー、それくらいにしなさい」


 フロリアンがたしなめた。ソフィーは一礼すると立ち去った。


「全く申し訳ありません。いつもあんな調子で……」


 ソフィーの代わりにフロリアンが謝った。


「いいのよ、気にしていないから。それにしても、あれなら結婚してからが思いやられるわ」


「まったくです」フロリアンが言った。


「さて、次の演目が始まるわよ」ヴァンディエール侯爵が言った「ご覧あそばせ!」


 太鼓が鳴った。そのリズムに合わせて、ダンサーの踊りが始まったのであった。


 宴は夜遅くまで続いた。そして皆が酔っ払い、ある者は床へ、そしてある者は娼婦を引き連れて客室へと戻って行って、やって終わったのである。

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