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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第41話 宴会②

「主賓がいらしたので失礼するわ、ではまたあとで」


 そう言ってマリーは上座の方へと立ち去る。ソフィーもそれに従った。


「あなたは行かなくていいんですか、弟君」


 マルティナはそう聞くと、フロリアンは答えた。


「はい、姉上からほかのお客様たちの歓待をするように申し受けておりますので。ヴァンディエール侯にはあとでご挨拶申し上げます」


「なるほど」


 その時楽団の方から一人が歩いてきた。露出度の高い衣装を着た踊り子である。

 酌をして回るのだ。


 やがて斎たちのところにやってきた。


「楽しんでいただいていますか……って、あなたは!」


 その踊り子は声を上げた。ヨービル市で話しかけてきた例の踊り子だったのである。


「ああ、あの時の!」


 斎も叫んだ。


「お二方はお知り合いなのですか?」


 フロリアンが訊ねた。斎はばつが悪そうに答えた。


「ええ、まあちょっと……」


「へえ、イツキはお堅いと思っていたけど、そういう過去があったとはね」


 セリーヌがにやりと笑った。


「いや、ちがうちがう!」斎は言った。「そういうことではない!」


 踊り子もぷっと噴き出した。マルティナも同じだった。シャルロットも苦笑いする。


「そうよね」踊り子は言った「だって『玉無し』だもんね」


「その呼び方はやめてくれ。ええと……」


「アンゲラよ」踊り子は答えた。


「そう、アンゲラ、その呼び方はやめてくれ」


「興味深い話ですね」フロリアンが言った「『玉無し』とは、面白い綽名です」


 こんな女装野郎に言われたくないと思いながら、しかし、喋らないわけにはいかない。斎は、由来を説明した。


「なるほど」フロリアンが言った「うちの『玉無し以下』よりはだいぶ穏やかですね。というかよりも、その言いようは他の4人の女性方に失礼ではないでしょうか」


 斎はうんうん、と頷いた。本当は女は3人しかいないがそれはどうでもいい。そう、彼が女性を襲っていないことを咎めるのは女性に失礼である。


「おっしゃる通りです」斎は言った「ところで、そちらの『玉無し以下』というのは?」


「あそこにいる従兄弟のことです」


 フロリアンが上座の右端を指さした。そこには、金髪の青年が座っている。


「エリック・ド・マルシャル。ケルンテン辺境伯です。わが一門の人間です」


「あんな彼が、『玉無し以下』なんですか」マルティナが訊ねた。


「はい」


「それはどうして」


「伯は、3年前、フルミニア戦役に従軍されたのです。しかし、そこで、大敗を喫しました」


「しかしそれで玉無しと言うのは……」


「相手が悪かったのですよ。相手はオリエンテの宦官だったのです。それに敗れたのです」


 ああ、と一同が頷いた。


「もし、伯と話す機会があっても、あまりそのことは言わないでください。すごく気にしていますので」


 その時上座からフロリアンを呼ぶ声が聞こえた。彼は頭を下げるとその場を辞した。


「これでイツキの名も知れ渡るわけだ」マルティナが言った。


「冗談じゃないですよ、こんな不名誉なあだ名」


「じゃあ女を買うことよ」アンゲラが言った「好みの女性を斡旋できるわよ」


 またもシャルロットが睨む。アンゲラがたじろいだ。


「じゃあかわりにボクが買ってもいいのかな」セリーヌが言った「お金ははずむよ」


「男娼の用意はないよ」アンゲラが笑って言った。


「違うよ。君を買いたいんだ」


 アンゲラが真顔になった。そして斎の方を見た。今度は斎が噴き出す番だった。


「そいつは女じゃないよ。男だよ」


「ええっ!」アンゲラが目を丸くした「あの侯爵と同類なの!?」


「彼よりは似合っていると思うけどなぁ」セリーヌは言った「それで、君はいくらかな?」


「ストーップ!」ライラが割って入って叫んだ。「セリーヌさん、お金はみんなのお金なのです。そんな遊んで消費していいものではないのです!」


「いや、でも、男なら溜まるものは溜まるし、ね」


 そう言ってセリーヌは斎に助けを求める視線を送ったが、斎は視線をそらした。


「ほら、許されないのです。美人さんからのお酌で我慢するのです」


 そう言ってセリーヌの盃をライラは代わりに差し出した。アンゲラはそれにワインを注いだ。


「トホホ、それはないよ……」


 セリーヌはそう呟くのであったが、周りは聞いていなかった。マルティナはフロリアンと会話を楽しみながら、イツキとシャルロットはいつもの痴話げんかを始めていたからであった。


 セリーヌは仕方なくワインを飲み干した。そして、それに再びワインが注がれる。それは、彼の記憶がなくなるまで続いたのであった。

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