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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第40話 宴会①

 宴は夕方から始まった。


 場所は大広間である。白いテーブルクロスのかかったテーブルが並べられ、肉料理や魚料理が並ぶ。飲み物はビールのほか、ワインもそれなりにあるようだ。銀のスプーンと鉄のナイフが並んでいる。


 マリー他のルクリュイーズ家の面々は奥の上座のテーブルについている。斎たちは末席ではないにしろ、やや離れたところである。しかし料理の豪華さは変わらない。


「こ、こんな豪華なもの食べたことないのです」


 ライラがよだれを垂らしている。セリーヌは、「まだ手を出したらダメだよ」とたしなめる。


 やがてマリーによって食前の祈りがささげられると、宴会が始まる。


「ああ、こんなにおいしいのは初めてです。何の肉でしょうか」


 ライラが肉をかじりながら言う。


「うーん、これはガチョウかな」


「ではこれは」


「ウナギ」


「このウナギはいただけないなぁ」斎は言った「煮凝りなんて。蒲焼が食べたいよ」


「蒲焼ってなんだい?」マルティナが言った。


「いいやなんでもない……うん、まあこれもいけるかな」


 そんな話をしながら食事を楽しんでいると、近づいている影があった。


 先ほどの叙任式の際、マリーの隣に座っていたショートカットの少女である。年齢はマリーより少し若く見える。


「今日はお越しくださりありがとうございます」


 少女は頭を下げた。そして持っていたデカンタからワインをマルティナのコップに注いだ。


「ありがとうございます。マルティナです」


「フロリアン・ド・ルクリュイーズです」少女は言った。


「フロリアン?」


 マルティナは訝しんだ。それは、男の名前であったからだ。


「ああ、フロリアン、こんなところにいたのね」


 その時マリーがやってきた。そしてマルティナたちを見ると言った。


「楽しんでいるかしら?」


「ええ、とても」マルティナは言った「ええと、その方は……」


「あら、先ほど紹介し忘れていたわね。弟のフロリアンよ」


 フロリアンは再び頭を下げた。


 シャルトットはそれを聞いて咽こんだ。


「男ですか!?」


「ええ。我が家では成人前の男子は女装して育てるの。その方が病魔が寄り付かないという言い伝えよ」


「ふうん」そう言って斎はセリーヌの方を見た。


 セリーヌは、なんだい、という風ににやりと笑った。なんだかめんどくさくなったので斎はそれ以上何かを言うのをやめた。


「とてもこの姿が似合うのよ」マリーは言った「かわいいでしょ、私の弟」


 そう言ってマリーはフロリアンと腕を組んだ。


 しかし、そこに後ろから呼びかける者がいた。


「あら、お義姉(ねえ)様、すこし距離が近すぎませんか?」


 後ろにいたのは15歳ほどの金髪の少女であった。神官のような白いローブを着ている。


「あら、ソフィーじゃない」マリーは言った「どうしたのかしら」


「お義姉様といえど、夫が私以外の女とべたべたするのは許されませんわ」


「将来の、夫よ。結婚するのは来年16歳になって成人してからでしょう」


「あら、もう婚約は済ませていますわ」


「ええと……」マルティナが困惑したような視線を向けた。


「ああ、失礼したわね。こちらは、フロリアンの婚約者、ソフィーよ」


「どうぞよろしくお願いいたします」ソフィーが挨拶をした。


「こちらの人たちがゴブリンを退治した冒険者よ」マリーが言った「悪代官の捕縛にも一役買ってくれたわ」


「まあそれは」ソフィーは言った「みなさん、凛々しい方ばかりですわね」


「そうだから、この宴にも来てもらったの」


「そう、その宴のことでひとつ申し上げたいことがありますわ」ソフィーは言った。


「なにかしら? 料理や給仕になにか問題でもありそうなの?」


「いえ、それは申し分ないと思います。しかし、あの踊り子たちの一座は何でしょうか」


 ソフィーは下座で繰り広げられる余興を指さした。踊り子たちが音楽に合わせて踊っている。中には、東方風とも称される、露出度の高い服を着た若い女性も混じっている。


「私はもともと教会に入っていた身ですわ。道徳というものをわきまえています。あの服装は、不道徳ではありませんか」


 ソフィーは司祭の姪であった。婚約のため還俗する前は、尼として教会にいたのである。道徳に敏感であるのは当たり前だ。


「あの一座はお客人が招いた人たちなのよ。ああいう変わったものがお好きな人だから」


「その、お客人はまだいらしていないようですが」


「ええ、だから少し困っているのよ」


 そこにマルティナが口をはさんだ。


「先にもおっしゃっていましたが、そのお客人と言うのはどなたなのですか?」


「ええ、そのお客人というのはね……」


 その時である。大広間の扉がバンと開かれた。そして守衛の声が響く。


「ヴァンディエール侯爵、ご到来!」


 場の一同の視線が入り口に向けられる。マリーが言った。


「ほら、噂をすればなんとやらね。お客人がいらっしゃったわ」


 入ってきたのは豪華に着飾った人物であった。顔は色白で、口紅やアイシャドーをつけている。その顔は明らかに男であるが、しかしその着飾りようは女装である。


 一言でいえばオカマである。


 斎とシャルロットが唖然とし、マルティナが感嘆し、そしてマリーがため息をつく中、その人物はこう叫ぶのであった。


「化粧に時間がかかってしまったわ、遅くなってごめんなさい」


 それがヴァンティエール侯爵フランソワ2世であった。


静まり返った一座に対し、続けて彼はこういうのであった。


「あら、どうして演奏を止めてしまうの。いくらあたくしが美しいからと言って、それに気後れすることはないわ。さあ、宴を続けるのよ!」


 そして小姓らを連れて上座に向かうと、自分用に用意された席に腰を下ろすのであった。


 一同は呆気に取られているままだった。場が元の活気を取り戻すには、すこし時間がかかったのであった。

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