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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第3話 異世界生活ことはじめ1

 翌日からリハビリもかねて、労働と、そして弓と魔法のレッスンが始まった。


 身体を動かしたりし始めてからわかったことであるが、女神は斎に、予防接種のと魔法の杖、そして語学力のほかには何かを与えてくれているわけではなかった。顔も背丈も体格も同じまま。黒い髪に黒い瞳、中の中というような顔、身長も170㎝程度。唯一の改善点は身体の修復にあわせて近視が治っていたことぐらいか。


 リリーが森番をしているこの森は某伯爵の領地にあるらしく、つまりはその伯爵の所有物であるらしい。伯爵家の家臣には林務官という森林を管理する役職があるが、実際の森の見張りはリリーのように森番を雇うのである。とくに、リリーのようなエルフは目が良くて、そして森に慣れているから、適任なのだ。


 エルフの側にももちろんメリットはある。ここレモリアではエルフははるか東の辺境出身の異民族であるとみなされており、数も少ない。都市部では差別の対象になることもあり、できるだけ人目を避けて生活したい彼らにとっては、よい働き口なのだという。戦時であれば弓騎兵として活躍するが、平時では仕事はあまりないのだ。


 そして森番の仕事というのは、簡単に言うと森のお巡りさんみたいなものである。

 すなわち密猟者や、勝手に伐採を行なう者たちを取り締まるのである。そしてその見返りとして、給料に加え、森番自身が生活に必要な分の狩猟をすることは許されていた。


 まず何とか動けるようになった斎が仰せつかったのは、薪拾いの仕事であった。

 背中に籠を背負って、落ちている小枝を拾い集めるのである。


 集めている途中、大木が一本倒れているのを発見した。リリーはそれを聞くと大いに喜んだ。


「それを材木にして売りましょう。お金ができます」


 森番であっても伐採を行なうのは領主の許可が必要である。しかし、倒れている木は好きにしていい。それで家を修繕したり、炭を焼いたり、材木として売り払ってもいい。


 斎としては今住んでいるワンルームの小屋を増築、もしくはあたらしいベッドを作ってもいいと思った。なにせ夜は一つしかないベッドを分け合っているのである。リリーは別に普通のことであると思っているようだが、しかし斎としては横に美女が寝ているこちらの身にもなってほしいという思いである。いろいろ耐えるのが精いっぱいなのである。


 だが彼女は現金収入が欲しいと言って、ベッド作成は見送られることになった。

 現金はいくらあっても困らないというのが彼女の言い分である。小麦やワインなどは教会の荘園で作られたものが給料として現物支給されている。しかし、食い扶持が2人に増えたのでそれだけでは足りないのであるという。斎はぐうの音も出なかった。


 その日は木の解体で1日が終わった。


 さて、肝心の弓と魔法のスキルであるが、これがなかなか進まない。


 まず、弓を引くだけの腕力が足りないのである。とにかく毎日弓を引く練習をしろとだけ言われて、そのようにした。実践の中で教えるからといわれ、狩りに出たが、結局獣に追い回されるおとり役で、リリーの弓さばきを見ている余裕などなかったのだ。


 そして魔法である。

 魔法は練習すればだれでもある程度は使えるらしいが、しかし向き不向きがある。

魔法には5つの属性がある。すなわち、土、水、風、火、エーテルである。リリーは土と水の魔法は使えるが、それ以外はほとんど使えない。そして斎の魔法の属性は、火であるというのである。


「まあ、火打石の代わりくらいのレベルの魔法なら使えますけど……」


 そう言ってリリーが辛うじて教えてくれたのは火の起こし方である。


「まず、気をステッキの先端に集中させます」


 斎としては気を集中させる、という概念が分からなかったが、しかしやってみる。


「次に火をイメージします。できるだけ具体的に観想してください」


 火を思い浮かべる。


「そして唱えるのです。クム・マギカ・ポテンシア・メア、エゴ・ユーベス、フィアト・イグニス!(我が魔力をもって命じる、火よあれかし!)」


「クム・マギカ・ポテンシア・メア、エゴ・ユーベス、フィアト・イグニス!」


 ぽっ、と杖の先に小さな火がともる。だがそれはすぐに消えてしまった。


「集中力を鍛えるんです。そうすれば最終的には大きな火の玉も出せるようになるそうです」


 彼女はこれ以外の火の魔法は知らないと言い、そして土と水の魔法については斎が何度頑張ってもゴーレムの一体も水の一滴も生み出せなかったので、適正なしとして教えられることはないと言い放ったのであった。


 かくして斎は柴刈りと、弓を引くための筋トレと、猟の追い込み係、そして集中力を高めるための瞑想に精を出すしかなかったのである。

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