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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
39/55

第38話 取り調べ②

間違って37話を途中で投稿していたので修正したものを投稿しなおしました。確認ください。

 夜の間、パーティーのメンバーが交代でゴブリンが勝手に殺されたりしないよう見張っていた。翌日、マルティナたちは代官屋敷に向かう。村人も付き従っていた。


 代官がマナーハウスの一階で出迎えた。


「昨日は失礼いたしました。なにぶんゴブリンというものをはじめて生で見たので、びっくりしたのです」


「いえいえ」マルティナは言った「さて、検分は終わりましたか?」


「ええ、確かにゴブリンの耳でありましたな」


「それでしたら、報酬を払って頂かないと」


 代官はそれを聞いて、困ったような顔をした。


「はて、それは困ったことになりましたな」


「どういうことですか?」


「税が入ってないのです。冒険者殿の後ろにいる村人どもが払わんのです」


「それは無茶な話だ!」村人が声を上げた「ゴブリンに襲われたんだ。出せるわけない!」


「黙れ」代官は言った「ワシはモンベリアル公よりこの荘園の管理を任された代官なるぞ。いわば公の名代、それに税が払えぬとは何事か!」


「しかし……」


「代官たるワシの言葉は公の言葉である、口答えなど許さん!」


「あら、だれの言葉といったのかしら?」


 その時戸口で声がした。マルティナが振り返る。


 そこに立っていたのは、黒いゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ少女であった。髪は銀髪のツインテール、背丈は150センチと少しで体格は華奢に見える。年齢はマルティナよりも少し若い、すなわち17歳ごろだろうか。黒い折り畳みの日傘を杖のように持っている。


「もう一度聞くわ、いったい誰の言葉と言ったのかしら?」


「なんだお前は」代官は言った「引っ込んでいろ!」


「控えなさい!」


 少女は叫んだ。代官がびくっとした。


 少女は戸口を振り返って言った。


「セバスティアン、盾を」


 次いで背の高い男が入ってきた。口ひげを生やし、歳は壮年といったくらい。盾を持っている。


「この盾の紋章に、見覚えがないかしら」


 代官はその紋を見た瞬間飛びあがった。

 その紋章は、モンベリアル公ルクリュイーズ家の家紋であったのである。


「そ、それは公の……!」


「ゴブリン襲撃に民が喘ぎ世相の安からざるを父はお嘆きになり、巡察に私を遣わしたのよ。さて、代官、もう一度聞くわ。この私、モンベリアル公が長女、マリー・フランソワ・ド・ルクリュイーズに言いなさい」


「そ、それがしは、ただ、代官の務めを果たさんとしただけでございまして……」


 代官がひたすらに縮こまりながら頭を下げる。


「あら、代官の務めとは?」マリーが睨んだ「あなた、ゴブリンに襲われた村の税を減免するように申し出たそうじゃない。民草を思いやるその気持ちに感動した父モンベリアル公は、それをお認めになったはず。なのにどうして税を取り立てているのかしら」


「そ、それはまことでごぜいますか!」村人は言った。


「ええ、本当よ。この代官の手紙も、父の返事もあるわ」


「代官殿!」


「そ、それは何かの手違いじゃ」代官は慌てふためいて言った。


「さて、それは後で話を聞いて決めるわ」そして今度はマルティナの方に視線を向けた。「さて、今度はその巡礼騎士の方に質問があるわ」


「何でしょうか」マルティナは彼女の方に向いて片膝をついた。


「外のあなたの仲間が連れている、趣味の悪い生き物はあなたのペットかしら?」


 マリーがそう言うと、斎とシャルロットが檻を引きずって入ってきた。オリの中には昨日捕らえたゴブリンがいた。


「そ、それをまだ殺していなかったのか!」代官は叫んだ。


「ええ、なにぶん面白いことを申していましたので」


「面白いこと?」マリーは小首をかしげる。


「ええ」


 マルティナが目配せをすると、斎がゴブリンの猿轡を外す。

 すると、今にも檻から飛び出さんばかりの勢いで、代官を罵倒し始めたのである。


「この嘘つきめ! なぜ襲撃が来ることを知らせなかったんだ! 人でなし!」


「あら、ゴブリンって、人の言葉を喋るのね」


 マリーが驚いたように言った。


「さようです。ゴブリンを見るのは初めてですか?」


 マルティナの問いに、マリーは「ええ」と答えた。そして続けて言った。


「でも、襲撃を知らせるってどういうことかしら?」


「冒険者が来るならいつも我々に教えていたではないか! 取り分を用意してやったのに、こんな仕打ちをするなど!」


 ゴブリンは唾を飛ばしながら叫び続ける。


「そのようなことは知らない! 早くそいつを殺せ!」


「あら、それはいけないわ」マリーは言った「あなたは代官、私は公の名代よ。ゴブリンと言えど、公の土地にいるものを裁く権利は公にあるわ。つまりここでは私が裁判官、私の法廷よ」


 そしてマリーは檻に近づいて、しゃがみ込んだ。


「ねえ、あの代官はあなたたちと何の取引をしていたの? 答えたら、この苦痛から解放してあげるわ」


「ほ、本当か!」ゴブリンは食いつくように言う。


「ええ、約束するわ」


「や、奴は我々が手に入れた宝物の一部を渡せば、討伐の者たちが行くときはその日時や数をあらかじめ教えると言っていたのだ! それだから前に来た奴らは皆殺しにしてやった! しかし今回は奴は教えなかったのだ!」


 まあ、襲撃の日付を代官には知らせなかったわけである。それは知るまい、と斎は思った。なお代官屋敷の人間から聞いたところでは先2組は代官と作戦会議をして意気揚々と正面から乗り込んだという。代官が情報を流していたというなら、やんぬるかな、討ち取られるのも無理はない。


「こういったものもゴブリンの巣窟に落ちておりました」シャルロットが紙きれを差し出す。洞窟で拾った、日付が書かれた紙である。「これは前回の冒険者が討伐に向かった日付です」


「ふうん」


 マリーはそう言って立ち上がった。そして代官の方を振り向く。

 目が据わっていた。


「そういうことらしいけれど、どうなのかしら」


「そんな、そんな生き物や冒険者風情の言うことを信じるのですか!」


「ゴブリンは人の言葉を理解できるのよ、ある程度の理非はあるはず。それにこの女性も騎士よ。嘘をつくメリットもないわ」マリーは言った「先の税のことも気になる。家宅捜索よ」


 そして言い終わるや否や、マリーは床のイグサのカーペットを傘の先端にひっかけて引っぺがした。土煙が立つ。下には、地下倉庫への入り口があった。入り口は石で蓋がされて床になっている。


 代官が抵抗しようとしたが、しかしセバスティアンが彼をすでに取り押さえていた。続いて入ってきた兵士らが蓋を持ち上げると階段が現れた。


 地下倉庫をマリーは兵士らとともに検分した。


 中にはたくさんの穀物や、金貨、そして衣服や武器などがあった。


 持ち出されてきた品物を見た村人は驚いた。なんと中に、村からゴブリンにより持ち去られた衣類などがあったのである。


「これはゴブリンに殺されたおらが娘の髪飾り……!」


「こっちもじゃ、兄者の使っていたナイフじゃ」


「代官殿、これはいったい……!?」


 村人は怒りの形相で代官を睨んだ。


「さて、言い分はあるかしら、代官」


 すでに縛り上げられていた代官をマリーは見下ろして言った。代官はただただ震えているだけであった。兵士が代官を引き立てて行った。


「お嬢様」セバスティアンが言った「ゴブリンはどうしますか?」


「そうね……もともとはあなたたちの捕虜なのよね」


 マリーはマルティナに行った。マルティナは頭を下げて行った。


「たしかに私の捕虜ですが、しかし、ここは公の土地。先ほど公に引き渡したものと、心得ております」


「そう、ありがとう」そしてマリーは言った「セバスティアン、ゴブリンを『楽にして』あげなさい」


「御意」


 そしてマリーとセバスティアンは建物の外に出た。檻を兵士が引きずって後に続く。


 セバスティアンは檻を開いた。直後、飛び出したゴブリンは勢いよく森の方へと走り始める。


「なんということを、ゴブリンを逃がすなんて……」


 周囲の誰かがそう言った瞬間である。


 マリーは閉じた傘の先端をゴブリンの方に向けた。そして何かを短く呟く。


 するとどうであろう、突如とつむじ風が巻き起こり、ゴブリンを捉えた。直後、ゴブリンの身体は真っ二つとなっていた。


 かまいたちである。


「首は晒しなさい」


 マリーはそう言った。そして振り向くと、マルティナたちがその様子を唖然として眺めていた。


「あら、趣味が悪かったかしら?」


 マリーがそう言うが、しかしマルティナはにやりと笑って答えた。


「いえ、おもしろき狩りでございます」


 その答えにマリーもほほ笑んだ。


「それならよかったわ。ねえ、ところで、あなたたちはあの代官から依頼を受けていたのよね」


「ええ。ああなので、報酬は貰えずじまいですが」


「その報酬、私から出すわ」


「本当ですか、それはありがたい!」マルティナは頭を下げた。


「いいのよ。冒険者が2パーティーも犠牲になる上に、税を減らさなければならないほど被害が広がっていたのよ。そろそろ軍も動かさねばと考えていたところだったのだから」


 そしてマリーはセバスティアンが連れてきた馬にまたがった。


「モンベリアル城までお供しなさい。そこで報酬を与えるわ」


 そう言ってマリーは代官屋敷前を立ち去っていく。マルティナや斎たちも、そのあとに続いてモンベリアル城へと向かったのである。

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