第35話 ゴブリン退治⑥ 闇討ち
さて、ゴブリンたちである。
「さてさて、この間手に入った女は上玉だ。よい子供を産んでくれるに違いない」
「この間捕まえた人間の女の冒険者はすぐ死んでしまったからな。楽しめなんだ。しかしあの女はもうちっともちそうじゃ」
「まだ討伐以来を受けた奴らがあるという。鴨が葱を背負ってくるとはこのことよ」
「まだ来ぬのか。先の冒険者どもの末路を慮って怖気づいたのか」
などと話しながら火を囲んで酒と肉を口にしている。両者とも先日村から強奪したものであった。
そのときである。突如として火が消え、まわりは真っ暗となる。いったいどうしたことかと慌てふためいているうちに、突如、閃光が走り、大きな音が響いたのである。
気が付けば周囲は白い煙が満ちていた。火は消え、暗闇の中、うごめく影。次々と仲間たちの悲鳴が上がる。
瞬時に、冒険者による襲撃だと理解した。
「なんだこれは、人間の嘘つきめ。わしはあの男から今日来るなど聞いていないぞ」
そう叫び腰の短剣を抜こうとしたが遅かった。そのゴブリンは、後頭部に重い一撃を食らって気絶したのである。
――いったい何が起こっていたのか、読者の皆様ならご存じであろう。
まず斎が呪文を唱え、火の精霊に働きかけることで、焚火を消した。次の瞬間に斎は火薬を詰めた小瓶を投げ込む。いわゆる「てつはう」である。
その爆発にゴブリンは怯み、一部のものは陶器の破片でけがをした。そして斎とライラはナイフを、マルティナは剣を、そしてセリーヌは木の棍棒を手に飛び出す。
あらかじめどこにゴブリンが座っていて、誰が誰を打ち倒すか決めていた。夜目が効くライラが細かい部分はバックアップを行って、闇討ちを敢行したのである。
周囲のゴブリンのうめき声が消えたことを確認すると、斎は灯りをともした。
折しも、シャルロットが女性を救出して戻ってきたところであった。震える彼女に、シャルロットはシーツをかけていた。シャルロットはゴブリンの返り血を浴びていた。
「こっちも片付いたようね」シャルロットは言った「じゃあ早くここを出ましょう」
「きちんと殺したか確認しないと」斎は言う。そして棒きれてゴブリンを突っついて回った。
「あれ、このゴブリン、まだ息がある。気絶しているだけのようだけど」
「ああ、ボクが殴ったやつだね。ごめんよ。止めを刺さなくちゃ」
セリーヌは棍棒を再び握りこんだ。そんな彼女をマルティナが制止した。
「ちょっと待って」
「どうしたんだい?」セリーヌが問いかけた。
「さっき、こいつ気になること言ってたよね。『あの男から聞いていないぞ』と。どういう意味かな?」
「こ、心当たりがあるわ!」
そのとき助け出された女性が声を上げた。
「この洞窟で、一度だけだけれど、男を見かけたの!」
「男? 捕まった男ではなく?」
マルティナが聞き返した。女性は頷いた。
「もしかして」
シャルロットはそう言うと、腰のポーチから紙きれを取り出した。
「奥の小部屋に落ちていたんです。汚れていて全体はよく判読できませんが、日付が書かれています」
マルティナは紙片を手に取った。
「これは……たしか前回の冒険者たちがここに向かったという日付だね」
シャルロットは頷いた。
「ふうん、これは何かいろいろと裏があるのかもしれないね」
マルティナはそう言って気絶しているゴブリンを見下ろした。
「こいつを連れ帰って尋問しよう。なにかわかるだろう、きっと」
言われたままに斎はゴブリンを縛り上げる。そしてむしろに巻いて背中に背負った。
そのとき、ライラがびくっとした。そして声を上げた。
「奥から来るのです。大勢です!」
「急ごう」マルティナは言った。そして女性を見た「走れそうですか?」
女性は頷いた。
「外への通路にも伏兵がいるだろう。ライラ、よろしく頼むよ」
「お任せなのです!」
それを聞いて一行は駆けだした。奥の洞窟からは、怒りに満ちたゴブリンの怒鳴り声が聞こえてくるのであった。




