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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第34話 ゴブリン退治⑤ 洞窟の奥

「うう、この匂いはしんどいのであります……」


 ライラは鼻を抑えながらつぶやいた。


 猫は夜目もそうであるが、鼻も人間よりずっとよく効く。奥に行くに従ってゴブリンの獣臭さや腐った肉のような臭いが漂ってくるのである。


「がまんして、ライラ」マルティナが言った「あなたが大事なんだから」


「それにしてもこれはどうするつもりなんだい」セリーヌが言った。戦闘ができない代わりに先に一緒におろしておいた荷物を背負っていたのである。「小麦粉なんて何に使のかな。ゴブリンにパンでも焼くのかい?」


「ちょっとあなたたち、静かにして」シャルロットは言った「見つかるわよ!」


「あっ、だんだんと臭いが近づいて来たのです!」


 シャルロットは制止しようと右手を横に出した。しかしもちろん周りは見えていないので後ろは進んで、シャルロットの腕にぼんと当たってやっと止まった。


「……見えない人が先頭なのはよくないのでは」


 斎がそう言うと、マルティナも確かに、と頷いた。


「じゃあ近づくまでは外しておけばいいかしら」


 シャルロットは指輪を外した。姿が見えるようになる。


「こっちの方が小生も安心なのです」


 ライラが言った。マルティナは問いかけた。


「さて、ライラ、ヒトの臭いはするかい?」


「いえ……あっ、いえ、匂うのです。若い女性の臭いなのです」


 マルティナはそれを聞いて顔を険しくした。


「するとやはりそうなのね……」


 ほかの面々も同じであった。


 ゴブリンは男は殺すが女子供はさらっていく。女は慰み者に、子供は奴隷とするのである。そして用が済めば殺して肉とする。そういう噂であった。ゴブリンのゴミ捨て場からは人骨が見つかっているので、そういわれるのである。


「あっ、何か聞こえてくるのです」


 猫は耳もいい。まだ他の4人には何も聞こえないうちから、ゴブリンの声が聞こえてきたのである。奥では、ゴブリンがどうやら宴会を行なっているようなのだ。


 やがて奥に光が見えてきた。先を進むシャルロットが制止した。


「様子を見てきます」


 シャルロットが指輪をつけると奥へと進んだ。洞窟の出口の前には大きな岩があり、わずかに人が通れる程度となっている。その奥はやや開けた空間となっていた。


 そこではゴブリンたちが火を囲んで宴を行っていた。その数15。


 シャルロットはそろりそろりとゴブリンたちの脇を抜けていく。今来た坑道の他にも横坑の入り口があった。うち一つは地図によれば外につながっているらしい。シャルロットは別の坑道へと入った。人の声が聞こえたからである。


 シャルロットは奥に進んだ。呻くような女の声が大きくなってくる。


 奥は小部屋のようになっていた。シャルロットは中を覗き込む。そして中で繰り広げられていた光景に目を覆いたくなった。そして次の瞬間には怒りで剣を抜き放ちそうになったが、そこは理性が勝った。ここでしくじれば作戦は水の泡と化すのである。


(ごめん、あとで助けるから)


 シャルロットは心の中でそう呟くと、来た道を戻る。そして4人に報告した。


「ゴブリンは広間に15、奥の小部屋に3匹。他の坑道の奥はわからない。奥の小部屋には捕まった女性が一人いて、それで……」


 シャルロットはここで言葉を詰まらせた。


「うん、わかった」状況を悟ったマルティナは言った「でもその18匹が総勢ではない。普通群れは40匹はいるし、襲われた村の証言でもそれくらいはいるはず」


「でもそれは」セリーヌが言う「一掃できるんだよね。イツキが言うところによれば」


「まあ、うまくいけばだけれど。捕虜はその一人だけかな?」


「女性の臭いは一種類だけなのです。あと、男の臭いがごくわずかにあるのですが、すごく薄いので、たぶんここにはいないのです」


 食われた男の臭いだろうかと斎は思った。


「よし、じゃあ作戦を再確認だ」マルティナが言った「シャルロットが奥の部屋に突入して捕虜を助け出す。同時に私たちも飛び出して行って、火を消してゴブリンを殺す。いいね?」


 一同は頷いた。


「じゃあみんな、作戦にかかろう」

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