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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第33話 ゴブリン退治④ 指輪

 翌日の夕方である。


 斎たちは丘の上にやって来ていた。守衛のいるゴブリンの洞窟の正面を迂回して、背後の丘に分け入っていた。


 ドワーフ曰く、ここに打ち捨てられた立坑があるという。ここから中に潜入する。


 地図に従い進む。するとドワーフの説明の通りの一本松が姿を現した。そのたもとには石組がある。金属を精製するための炉の跡である。


 近づいて行けば、一部崩落しているが、確かに立坑の入り口があった。内部には腐った木切れがある。往時には立坑を補強していたのであろう。


 深さは150フィートほどであると言われていたが、正確な長さを知りたい。中は暗く奥までは見えないので、斎はこころみに石を落としてみる。3秒と少しで水音が聞こえてきた。


 確かに、150フィートほどであろうと確信した。


 5人はロープで順に立坑を下る。立坑の底には、膝下程度まで水が溜まっていた。鉱山が閉山となったため溜まった地下水であった。ゴブリンたちは、溜まる水を排水するすべを持たなかったのだ。


 斎は、ステッキの先端に火をともした。マルティナが地下の地図を広げる。


「今、ここにいる」マルティナは地図の一角を指さした。「ほとんどの坑道はここから下に伸ばしたと長老は言っていたわ。ということは水没しているはず。唯一、高度を上げている坑道はこっち」


 マルティナは立坑から水平に伸びる坑道の一つを指さした。


「これが、ゴブリンどもの住みかにつながっているはず」


 一同は、うん、と頷いた。


 その時である。ライラが声を上げた。


「あれは何でありますか」


 ライラは水底を指さしていた。炎の光を反射して、何かが輝くのを見つけたのである。


 それは黄金色に輝く金属製の指輪であった。それを斎は拾い上げた。重さからすると、金ではなさそうだ。おそらく黄銅か何かだろうと思った。


 斎はその指輪をはめてみる。すると、不思議なことが起こった。


「あれ、イツキは?」


シャルトットが叫んだ。他のメンバーも面食らっていた。なんと目の前で斎の姿が消えたのである。


「俺はここにいるよ!」


 斎がそう言うが、しかし、4人は狼狽えるばかりである。


「声はするのに姿は見えないのです」ライラが言った「どこにいるのですか」


 斎はもしやと思い、指輪を外した。突如として目の前に斎が再び姿を現したことに、一同は再び驚いた。


「一体どうしたのよ」シャルロットは言った「急に消えたり出て来たりして……そんな魔法使えたの?」


「俺にもわからないよ。この指輪をつけると突然……」


 そのとき、突然セリーヌがぽん、と手を叩いて声を上げた。


「聞いたことある。それは『石ころの指輪』ではないのかな」


「石ころの指輪?」皆が聞き返した。


「ドワーフが土鬼(ノーム)の力を込めて作り出す指輪だよ」ノームとは大地の精霊である。4大元素のうち土をつかさどる。「魔よけの力があるらしく、聞くところによればそれを身につけたものは道端の石ころの様に無視されるようになるというけれど……」セリーヌはなおも信じられぬという風に指輪をまじまじと見つめた「実物を見たのは初めてだ」


「なるほど、これがあれば姿を消せるのか」


 斎は指輪を眺めながら言った。黄金色に輝くほかは何のことはない指輪である。


 だがしかし、これは5人にとって思いがけない助けとなった。これがあれば、作戦の遂行がずっと簡単になるのである。


「では先に進もう。指輪は誰がつけるのがいいのかな」


 マルティナが言う。

 当初の予定では剣に長けたシャルロットと闇の中でも目が効くライラが先頭を、その後ろを3人が進む予定としていた。


「小生はシャルロットどのがいいと思うのです」ライラが言った「小生ひとりと思って油断して攻撃してきた相手をいきなり切り伏せることができるのです」


「うん、それがいい」マルティナは言った「では、イツキ、シャルロットに指輪を」


 斎は言われた通りシャルロットに指輪をわたした。シャルロットは(おそらく無意識のうちに)薬指にその指輪をはめた。その姿が消えた。


 そして一行は先ほどマルティナが指さした横坑に歩みを進めた。先頭に立っているのはライラである。その横にシャルロットがいることは、ガチャガチャという音のみでわかる。


 しだいに穴の奥から臭気が漂ってくる。吐き気を催すようなその臭いを我慢しつつ、一行は奥へと向かうのであった。

1フィートはおよそ0.3メートルです。重力加速度は地球と同じです。

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