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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第31話 ゴブリン退治② 偵察

「あれがゴブリンの穴倉か」


 斎たちは木陰からゴブリンの穴を覗いている。山の斜面に穿たれたその入り口の大きさは人の背丈より少し高い程度である。穴の入り口の左右には醜い背の低い緑色の生き物がいた。ゴブリンである。


 それよりも吐き気を誘ったのが、入口の周囲を彩る「ゴブリンの幟」であった。


 なんと、人間の剥いだ皮を棒に吊るして掲げていたのである。


「あれは反吐がでそう‥‥‥」


 シャルロットが青ざめた顔で言う。斎ももちろんである。案外マルティナは平気そうである(いや、何事にも動じないのであるが)。セリーヌとライラは顔色を変えない。


 それどころか。


「あの剥ぎ方はよくないのです。皮が痛むのです」


 などとライラは言っている。


「いや、そう言う問題じゃなくてね」セリーヌは言う「あれは、かなりの心的効果があるよ。あれはだれだろう、討伐に行った冒険者かな。近づきたくはなくなるよ」


「そんなことより‥‥‥ほんとにどうにかしてほしいわ、うぷっ」


 シャルロットがその場に吐いた。


「まあまあ、それで、斎、セリーヌ、二人とも策はあるのかな」


「ええと、それは」斎は青ざめた顔を自身の平手で打ち、なんとか正気を保ちながら答えた「とにかく入り口が狭いですね。弓や槍は使えません。短刀が何とか使える程度かと」


 実際入り口が狭いのには理由があった。もともとはドワーフが掘っていた坑道である。それが打ち捨てられたあと、ゴブリンが住み着いたのである。


「奥の様子はわかりませんね……風の魔法があれば万里の声も聞こえるとも言いますが、しかし、風の魔法を有する人はいますか?」


 斎の声に、皆が首を横に振った。この中で斎の他に魔法が使えるのはマルティナのみであったが、彼女が使えるのは土の魔法だけであった。


「では、奥まで入って、そのあと何とかしてゴブリンを殲滅するしかないよね」


「マルティナ様、そうは簡単に言いますが‥‥‥」


 シャルロットが再度の嘔気を抑えながら言った。


「それを何とかするのが、皆の仕事だよ」


 マルティナが言うが、しかしシャルロットは御免という顔をして後ろに下がる。


「とにかく中に入ってみないことには何ともならないという。いたしかゆしだね」


 セリーヌが頭を掻きながら言った。斎もいい手が思いつかず困り果てている。


「奥まで進む方法ですよねぇ、とにかく目が見えさえすればいいのですが。夜目が効けば……」


 そのときはっとした。いるではないか、夜目が効きそうな人物が。


 ほかの人々の気持ちも同じだった。4人の視線が一人の人物に注がれる。


「え、しょ、小生ですか!」


 ライラは目を丸くして言うのだった。


「そ、そんな、小生みたいなか弱い女の子を先頭に立てるなんて非道なのであります! それに、ゴブリンに捕まればひどいことをされるに決まっているのであります!」


「大丈夫だって、別に先頭に立てと言っているわけじゃないんだから」


 セリーヌがなだめるように言う。


「本当なのですか、嘘はダメなのですよ」


「本当だってば」


「ならいいのです」


 ライラはうんうんと頷いた。それを見て、セリーヌは今度はマルティナに視線を投げかけた。


「さて、マルティナ、もちろんだけど、あの正面から突入するわけないよね」


「ん、どういう意味だい?」


「またまた。あれはドワーフの鉱山だと言っていたよね。とすればあそこの他にも横坑や立坑があるはずだろう?」


 マルティナは、ほほうと頷いた。


「それもそうだ。でも、そのためには鉱山の正確な地図が必要じゃない?」


「だから、まずはドワーフの村に聞き込みに行こうと思う。一番初めに襲われたのが、ここで昔働いていたドワーフたちの集落というじゃないか。古老が生き残っていれば、坑道の内部構造が分かるかも」


「なるほど」会話を聞いていた斎も頷いた。「村に向かうんですね、家畜はいるかな?」


「ドワーフも馬くらい飼うし、肉も食べるから、いるんじゃない?」マルティナは言った「突然どうしたの?」


「いえ、ちょっと思いついたことがあって。セリーヌにはそれを手伝ってもらおうと思う。もしかしたらゴブリン討伐に役に立つかも」


「思いついたって、なにをさ」


 セリーヌが尋ねる。斎は、不敵な笑みを浮かべて答える。

 そしてその答えに、セリーヌは目を丸くするのである。

 

 斎の答えは次の通りであったのだから。


「硝石だ。硝石を作って、火薬をつくるんだよ」

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