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異世界太平記  作者: 淡嶺雲
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第30話 ゴブリン退治① 代官屋敷にて

 一行は北へ向かう。8リーグの距離である。依頼を受けた翌朝ベルフォールを発ち、夕刻目的地のプルギニョン村へとたどり着いた。


 出迎えたのは、太った代官である。


「いやいや皆さま、お越しくださいました。さあさあ、こちらへ」


 彼らは代官屋敷へと通された。村にあるマナーハウスである。2階建てであり、1階のホールに食事が用意されていた。


 屠られたばかりの鳥の丸焼きや、パン、スープが並ぶ。


「お、おいしそうなのです」


 ごちそうを見てよだれを垂らすライラであったが、しかし他4人の心のうちは穏やかではない。


「代官殿、これはいったい?」


 マルティナが問うた。


「ええ、ささやかながらご歓待をと思いまして」


「そう言うことではありません」マルティナが睨めつけるように言った「この一帯の村はゴブリンに襲われているわけですよね。食料も労働力も強奪され、民も疲弊していると聞き及んでいます。じじつ、夕食時だというのに、民家からは煙をほとんど見ません。それなのに、このような食料がどこにあったと言うでしょうか」


 代官はたじろぐように答えた。


「いえいえ、私はただ遠路はるばるいらっしゃった皆様をねぎらおうと思ったまでで‥‥‥」


「ではこれは食事に困窮している領民に与えられてはいかがでしょう。私たちは少しのパンとスープで十分です」


 代官はぐう、と押し黙った。


「私たちは今日1日歩き通しで疲れています。軽く食べて話を伺ったら休ませていただきますので」


 そう言ってマルティナは荷物を置くため2階の客間へと向かった。残りのメンバーもそれに従う。ただライラだけはありつけそこねた食事を後ろ髪を引かれる思いで見つめているのであった。



***



「さて、作戦を話し合おうか」


 マルティナが言う。

食事のあと、客間で5人は額を突き合わせていた。パンとスープを食しながら、代官と村役人から聞いた情報を整理していたのである。

 簡単な周囲の地図の一角をマルティナが指さした。


「まず、村から1リーグ離れたところに打ち捨てられた坑道がある。ここをゴブリンどもは根城にしているらしい」


「そしてここから夜中村にやってきて、村を襲う、と」斎は言った「この×がついているところがすでに焼かれた村ですね」


「そうだ。襲撃に特に規則性はない。夜中に家畜や女を誘拐していくだけのこともあれば、村丸ごと焼き討ちとすることもある。そしておそらくは蓄えた物資が尽きれば、次の目標を襲う」


「確かに厄介ね。でも頭も悪く体格の小さなゴブリンでしょう、どうにかなるんじゃないのかしら」


 シャルロットがそう言うと、マルティナが返した。


「それがそうもいかないということだ。聞いただろ、村役人によればこれまで2回別の冒険者たちがゴブリンの根城へと向かったけれど、ついぞ帰らなかったという話だ。代官は、非力な駆け出し冒険者だからやられたんだろう、其の方なら大丈夫だろうだなんて言うけれど……」


「ただ穴を攻めるだけならどうにでもなるよ」セリーヌがため息をつくように言った。「でも、話では穴の中には捕虜がいるかもしれないわけだ。それも救出しないといけない。うーん、少しは頭を巡らさないといけないみたいだね」


「ええ、だからまずはその穴を偵察に行こうと思う」


 マルティナの言葉に、セリーヌが疑問を返した。


「そんなことできるの?」


「あら、大学生なら頭いいんじゃないかな。そういう頭脳労働があなたの仕事じゃない?」


 マルティナがそう言う。これにはセリーヌも困り果てた。


「いや、そうだといっても、こういうのは得意じゃないから……軍事関係の知識なら、ね」


 そう言ってセリーヌは斎を見た。他の3人の視線も彼に注がれる。斎はびくっとした。


「いやいや全然!」斎は手のひらを振って否定する。


「またまた、火薬を使えば何とかなるんじゃないのかい?」


「だから、硝石がないと火薬は作れないんだって、硝石がないと……」


 そこまで言ったところではっとした。そうだ、ここは農村だ。馬小屋や豚小屋もたくさんある。とすれば……


「どうしたの?」


 マルティナが問いかけるが、しかし、斎は、


「いや、とくになにもないよ」


 と否定したのであった。


「さあ、とにかくもう寝よう。みんな疲れているんだ。明日は朝から偵察や村々の聞き込みに行くんだろ」


 みればライラがうつらうつらと舟をこいでいる。セリーヌはライラの肩を支えた。鼻提灯が割れた。


「そうしよう」マルティナは笑って言った「明日朝食を食べたら出発するので、そのつもりでよろしくね」


 そして5人は床に入った。疲労のためか、夜は酒もほとんど口にしていないというのに、すぐさま眠りに落ちたのだった。

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