第28話 イツキとセリーヌと
宿の部屋割りは当然ながら男女別となった。シャルロットはやっとまともに眠れると胸をなでおろしていた。ライラはセリーヌと寝たがっていたが、しかしこれは決まりだからと言ってマルティナが引きはがして部屋に連れて行ったのである。
「なんで男と裸で寝ないといけないんだ」
斎はぶつくさとそう言いながら床の準備をする。セリーヌは言った。
「ボクとしても女の子との方がいいんだけれどもね」
斎はきっとにらんだ。それを察知してかセリーヌはにやりと笑った。
「やっぱりボクがシャルロットに秋波を送っていたこと、気にしてる」
「そ、そう言うわけでは……」斎は顔を赤くして言った。
「んー、でも顔に出てるよ」ぐいっと顔を寄せてきた「初心だね」
そして顔を遠ざけて、ふっと笑う。
「でも心配しないで。ボクはシャルロットに興味あるわけじゃないから」
斎はそれを聞いてむすっとした顔をした。
「じゃあなんであんなことしてたのさ」
「それはね、面白いからだよ」
斎は、はあ、とため息をついた。まったくとんでもない奴を仲間にしてしまったなと思った。
「ところでだ、なんで女の格好なんだ」
斎は改めて尋ねた。
「なんだ、そんなことか。それはさっき言ったじゃないか。女の方が相手を油断させやすいって」
「でもそれだけじゃないだろ。それに、セリーヌって言うのも偽名じゃないのか。それは女の名前だ」
「セリーヌは本名だよ」
「えっ?」
斎は驚いた顔をした。
「少なくとも、幼名ではあるんだ。男の子の方が女の子より幼い時に死にやすい。だから我が家では、男にも女の名前を付けて育てる風習がある。そして成人したら、改名するんだ」
「じゃあなんで?」
「領地を出て学校に行ったからね。それに、ボクはこの通り、女装が似合う。親も、ボクが男であったことを時に忘れるくらいさ。だから、男にもどるタイミングを見失ったんだ」
斎は相槌をうちながら、わずかに憐れみを覚えていた。親からも性別を忘れられるなんてかわいそうすぎる。
「ああ、でも中身は男だよ。だから、べつに男を襲う趣味はそんなにない。女の子を誘うにはこの姿は便利だけれどもね」
前言撤回である。やっぱりその格好で女を油断させてひっかけていたのか。とんだ男である。それになんだ、『そんなにない』って。ないならないと断言してくれと、斎は思う。
「まあ、そっちの方は、うちのパーティーの名声を汚さない程度にしてくれよ」
「わかっているって。まだ君にも嫌われたくないしね。火薬を作らないと。聞いたよ、硫黄を手に入れたんだって」
「そうだけども」
「じゃあ他の素材も教えてよ、集めるからさ」
斎は頭をかいた。虱のせいではない。なんとも返答に困るからだ。
斎にはまだ火薬の仔細をセリーヌに教える気はなかった。しかし、パーティーのメンバーであることは確かである。ここで協力しておいた方がよいかもしれない。それに材料を集めるにもセリーヌの錬金術の知識が必要かもしれないのだ。
斎は口を開いた。
「ええと。硫黄の他に材料が2つある。一つは簡単に手に入る。木炭だ」
なるほど、とセリーヌは頷いた。
「もう一つは硝石」
セリーヌはそれを聞いて困った顔をした。
「硝石か、それは困ったね」
「ないのか?」斎は尋ねた。
「いや、あるにはあるんだろうけど、すごく高いよ。マウハリムやオリエンテから交易でもたらされていたとかいう、貴重な薬だ。滋養強壮だとか、腐敗防止とか、そう言う効能があるらしいけど、ボク自身はまだお目にかかったことはない」
なるほど、と斎は思った。硝石を得るあの方法はこの国ではまだ知られていない、と確信した。
「じゃあそれを運良く手に入れられるかどうかがカギなわけだ」
「そう言うことになるね。でも、火薬の原料なんじゃオリエンテは禁輸措置を取っているはずだ。だからほとんど入ってこないんだろうね」
「幻滅しそう?」
「まさか。むしろワクワクするね」
セリーヌはそう言って歯を見せて笑った。斎も笑みを浮かべた。
「さあ、もう寝ようか。明日はまた早いんだし」
そう言ってセリーヌはベッドにもぐりこんだ。
「それがいい」
斎もうなづくと、ろうそくの火を吹き消した。そして服を脱いで、シーツを被るのであった。




