第27話 ライラ歓迎会
「いやあ、びっくりしたよ、まさかセリーヌの性別が男だったとは」
マルティナが言う。場所は泊っている宿に併設された居酒屋である。セリーヌは昨日の宿を引き払っており、こちらの宿にまだ空き部屋があるということで、もう一部屋取ったのである。
「よく女と間違えられるんだよ。ボク自身は女だなんて一言も言っていないのにね」
セリーヌはジョッキを傾けながら言う。その動作まで艶かしい。男なのに。
「なんでそんな格好しているのよ」
シャルロットが尋ねた。セリーヌは、んーといいつつ、としたねっとりした視線を投げかけた。シャルロットがどきりとした。
「それはね、こういう格好をしていた方が、相手を油断させられるからだよ。男も女もね」
ぐいっと、身を乗り出すようにして顔をシャルロットに近づける。
斎がすかさず割って入った。セリーヌの肩に手を置いて座らせる。
斎は、こほん、と咳ばらいをすると言った。
「で、そう油断させてどうするんだ?」
「まあいろいろだね」
「いろいろ?」
「聞きたいかい?」
「いや、遠慮しておくね。ろくでもないことだろ、どうせ」
「ははは、手厳しいねぇ」
「まあ、とにかく、今の主賓は、セリーヌではなくて」マルティナが場を収めるように言った「この新しい仲間、ライラだ」
ライラががつがつと食べていた料理から顔を上げる。ひょこっと耳が動いた。口の周りに食べ物がついている。
「さあ、ライラ、改めて自己紹介して」
ライラは肉の塊をごくんと飲み込んだ。
「はいなのです」ライラは言った「小生はライラ、理髪師なのです。瀉血や手術もできるのです」
「いつからしているの?」マルティナは尋ねた。
「はい、御師様に出会ったのは6年前なのです。他の人たちが売られていく中、最後に残った小生を買ってくださったのは御師様だったのです。御師様は小生にこの国の言葉や刃物の使い方を教えてくれたのです」
そして仕事の手伝いをさせていた、ということであるらしい。
奴隷に手伝いをさせるのは何も珍しいことではない。しかし都市部では理髪師などはギルドを形成しており、基本的に自由人から弟子を取る。放浪する職人で弟子がつかない場合、奴隷を使うこともあるというが、それは極めてまれな場合である。しかも、マウハリム人などの亜人・獣人となってはさらに稀である。
「御師様には感謝してもし切れないのです。このご恩に報いるためにも、立派な理髪師となるつもりなのです」
「それは立派な心掛けね」マルティナは言った「ではちゃんとこのセリーヌに従って、医学というものを習得してね」
「はい、よろしくなのです。セリーヌお姉さ……お兄さん?」
「いや、どっちでもいいよ」セリーヌは言った。
「では『ご主人様』というのはどうでしょうか」
「君はもう自由の身だよ。ボクの従者じゃないんだ」
「じゃあしっくりくる言葉が思いつかないのです……」
「セリーヌでいいよ」
「セリーヌ……わかりました、セリーヌさん!」
「うん、それでいい」
セリーヌはにこりと笑った。
「さあ、続きを食べよう」マルティナはライラの前にスープを置いた「おいしいよ」
「ありがとうなのです」
そう言ってライラはスープを器ごと掻き込もうとする。しかしスープはまだ熱く、ライラは舌を火傷してしまった。
「ほら、いわんこっちゃない」セリーヌが言った。
「うう、小生としたことが。小生は猫舌なのです」
涙を浮かべてライラが言った。マルティナはははは、と笑った。
「それにしてもいい食べっぷりだね」
「そうなのです。ここ半年でもっともまともなご飯なのです。お風呂にも入れてもらえて、本当にありがとうなのです」
「それくらい。私たちは仲間なんだから」
「はい!」ライラはそう言ってにっこりとほほ笑むのであった。




